神様はもういない

「気づいていて、わざと気づいていないふりをしていた。それってたぶん、湊くんがあゆりと一人の人間として、もう一度向き合いたいと感じたからだと思う。幽霊になって出てきたのは、あゆりのことが心配だったからだと思うよ。湊くんにもあゆりにも、まだお互いに伝えたいことがあるんじゃないのかな」
 雅也の、落ち着き払ったその声が、私の胸を、頭を熱くした。頭からつま先まで、ビビッと電流が駆け抜けるかのように奮い立たされる。
 時計を見つめる。午後六時過ぎ。六月も終わりを迎えようとしている今日、まだ外は完全に日が落ちていない。
「湊っ」
 たまらなくなって、湊の名前を叫ぶ。
「湊、どこにいるの? 出てきて!」
 湊は私の部屋から出られない。だったら、この会話だって聞こえているはずだ。
「湊……ねえ、湊!」
 カラカラに乾いた喉からこぼれ出てくる自分の声は、最愛のひとを探し求める切実な響きを纏っていた。
「もしかしたら、湊くんはこの家にいないのかも」
 雅也がぽつりと口にする。
「どういうこと? 湊はこの家から出られないはずだよ」
「それって、ちゃんと検証とかした?」
「検証……いや、そこまでは。でも湊が、玄関から出られないって言ってて……」
 その時のことをよく思い返してみる。
 確かに湊が玄関の前で「これ以上進めないよー」と嘆いているのを目にした。でも、実際に彼が見えない結界に跳ね返されたとか、見えない壁にぶち当たってしまったとかそういう場面を見たわけではない。彼が自分の口で(・・・・・)「進めない」と口にしただけだ。