神様はもういない

 いいのかな……話しても。
 そんなふうに感じていた気持ちも、どこかへ吹き飛んだ。
 息苦しいと思っていたはずなのに、気がつけば肺いっぱいに空気を吸い込んでいた。
 それから彼の目を見つめて、抱えていたものを吐き出す。
「実は私……半年前に、婚約者がいたの。その人の名前は湊っていって、馬鹿みたいに明るくてアホで、だけど太陽みたいにまぶしくて、私にとって彼は……神様だった」
 雅也が隣でごくりと息を飲み込む。
 恋人から元彼の話なんか聞かされて良い気分になるはずがない。それなのに雅也はいったん私の話をすべて聞くとでもいうように、背筋を伸ばしたまま黙って耳を傾けてくれていた。
「私は湊のことが大好きだった。だけど半年前、湊は雷に打たれて死んじゃったんだ。突然のことでパニックにもなった。同じ会社に勤めていたこともあって、思い出すのも辛いから今年の一月に会社も辞めちゃって……。真っ暗なトンネルの中でひたすら停滞しているみたいな時間を過ごして、春にようやく新しい会社に入ろうと思ったの。そして雅也に出会った。雅也に優しくしてもらうたびに、心にぽっかりと空いていた穴が塞がっていく心地がしたんだ。このまま忘れられたらいい。湊のことを忘れて、雅也と幸せになりたいって本気で思った。でも」
 そこで一度、呼吸を整える。ここで真実を話すべきか否か、一瞬迷った。けれど、依然としてまっすぐな視線を私に向ける雅也の息遣いを感じると、話さずにはいられなかった。
「一週間と少し前かな……。家で持ち帰りの仕事をしてた時に、湊の幽霊が……現れたの」
「幽霊?」
 これにはさすがの雅也も耳を疑ったらしく、唖然とした表情で私を見返す。