結婚の決め手は焦げた玉子焼き!?黒豹御曹司は愛する秘書を逃がさない

 このマンションは駅直結の商業施設の上。
 商業施設にはコンサートホール、映画館、百貨店、本屋、スーパー、内科、歯医者、さらにドラッグストアもあるのだ。
 この建物から出なくても生活できそうなところが怖い。

 着替えた沙紀は暁良とスーパーへ。
 スーパーの中で売っていた玉子焼き用の安いフライパンを、沙紀は暁良が持つかごに入れた。
 CEOがスーパーの買い物かごを持つなんて似合わなさすぎて、おかしい。
 会社の人が見たらびっくりするだろうな。
 
「あとは卵と、豆腐と……」
「今日は何を作ってくれるんだ?」
「魚が食べたいなと思って」
 特に魚の種類は決めていないと沙紀が答えると、暁良は驚いた顔をした。

「食べたいものに合わせて材料を買うんじゃないのか」
「そうすると食材が無駄になりません?」
「あぁ。だからだんだん買わなくなる」
 そして最後は外食とデリバリーになるのね。
 なるほど。

 でもそれはお金のある人だけ!
 庶民は自炊でやりくりするんです!

「……なんだこの魚は」
「ホウボウですよ?」
「向きが変だろう」
 確かにスーパーで売っている魚は切り身か、横向きに寝ている向きだが、ホウボウはポテッとお腹を下にして売られているから向きが変だと思うかもしれない。

「あ、一昨日の会食でお刺身がありましたよ。少しピンク色っぽい……」
「あぁ。タイみたいな味のやつか」
「そうです、それです。じゃあ、今日はホウボウの煮つけにしますか?」
「そうだな。食べてみたい」
 ホウボウを買い物かごに入れ、次は肉コーナーへ。

 こんなふうに二人で買い物をするなんて初めてで、買い物かごを取られて手持無沙汰だったけれど、意外と楽しい。
 ひとりで買い物をするときは、値段と鮮度を真剣に見て、黙々とかごに入れるだけだったけれど。

「どうした?」
「あっ、えっと、楽しいな……と」
「そうか」
 そっと繋がれた手にドキドキしているのは私だけ?
 アラサーなのに免疫がなさすぎる?

「オレンジでも買うか?」
「食べたい……!」
 バレンシアオレンジは大好きだ。
 お日様をたっぷり浴びた濃いオレンジ色がおいしそうでたまらない。

「食後に剥いてやる」
 なんだかいいな、こういう関係。
 最初にみっともない姿を見せてしまったせいか取り繕う必要もなく、契約上の婚約者だから顔色をうかがう必要もない。
 
 そう考えると、大輝のときは無理をしていたのかもしれない。
 合コンに行くと言われても、嫌われたくなかったから理解しているふりをしていた。本当は嫌だったのに。
 夕飯を作ったのに急に飲みに行ってしまっても、文句は言えなかった。
 土日だって約束していたのに二日酔いで出かけられなかったり、面倒だからひとりで行けと言われたり。

 ……思い返すと、最低な男では?