隙あり!

 斗真くんがこの一瞬で見せた隙に、私はスマホを拾って近くのベンチ裏に隠れた!

 早く、お兄ちゃんたちに電話しなきゃ。

 指があせってスクリーンの上を滑っていく。

 今は悩んでる暇なんかないんだ。

 私の指、速く動けーー!

「隠れても無駄だよ。一瞬の時間稼ぎにしかならない」

 数字をタップしたところで、上から声が降ってきた。

 ま、まずい! もう来ちゃった!

 最後にボタンを押したのと斗真くんが私の腕をつかんだのは同時だった。

 その反動でスマホが手から零れ落ちる。

「みくちゃん、おとなしくついておいで。そうしたらすべて穏便に済む」

 御影みく、人生最大の絶体絶命だぁぁぁ!

 頬に冷や汗がつたった。

 斗真くんは私の目の前にいる。

 お兄ちゃんと大聖は探してくれているだろうか。

 スマホがちゃんとつながっているかもわからないし!

「さあ、僕の婚約者になる覚悟はできた?」

 斗真くんがぐいっと私の腕を引っ張る。
 
 私は追い込まれたピンチに顔面蒼白になった。

 もういいっ。どうにでもなれーー!

 力の限り、スマホに向かって叫ぶ。

「お兄ちゃんっ、私は公園にいる! 助けて!」

 その時、私のスマホからブツッとノイズ音が聞こえた。

『ちょっと待ったあ! 誰がお前に渡すか!』