私がそう聞くと、斗真くんは面白そうに口角を上げて、うーんとうなった。

「少し前から、なんかおかしいと思ってたんだよね。でもみくちゃんは何も知らなさそうだったし放っておいたんだけど。最近は様子がおかしかったから。
 二人とケンカでもしたんでしょ? 東雲が分裂してくれる時を待ってたんだよね」

 こ、こうなったら、東雲の誰かが見つけてくれるまで、時間稼ぎするしかない!

 やけくそな計画だけど、だってしょうがないもん!

 どうすればいいか、わかんないんだから!

 斗真くんがしゃべってくれてるうちに、ちゃんと頭を使って考えなきゃ!

 頭の中をぐるぐる回していたら、斗真くんがあっと声を上げた。

「僕、提案があるんだ。みくちゃん、聞いてくれる?」

「え、提案?」

 斗真くんは私の気も知らないで、しゃべりかけてくる。

 あー、もう!

 にげる方法考えたいのにー!

 でも私が持ってるものなんて、通学カバンの中に入ってる筆箱とか教科書とか。あ、あとはポケットにスマホぐらいか。……って、そうだ!

 私は斗真くんに気づかれないよう、こっそりと右手を後ろに回した。

 右手の指先がコツッと固いものに当たる。

 よしっ、あとは気づかれなければ……!

「僕、みくちゃんに婚約者になってほしいんだよね」

「はああっ⁉」

 驚いちゃって私は大声を上げる。

 だって、斗真くんは何を言っているの⁉

 斗真くんが私と婚約⁉

 そもそも、斗真くんは敵、西明かりなんだよね⁉

 斗真くんはにこっとほほ笑んだ。

「名案でしょ? 僕の婚約者になって西明かり側についてくれたら、いくら東雲でも娘のことを攻撃できないでしょ。これで万事解決」

「いや、無理無理無理無理! そんなの絶対無理だからー!」

 私は大きく後ろにのけぞる。

 その瞬間、ポケットの中が軽くなった感覚がした。

 ああっ、手が滑って!

 カタン、とスマホが地面に落ちる。