「今日、あの公園に来てよ。もちろん、お兄さんには秘密で」
「えっ?」
「二人だけで腕試ししよ。面白そうじゃない?」
あはっと笑うと、パッと後ろに退いた。
「そんなに警戒しないでくださいよ。言ったでしょう? 友達だって」
見ると、お兄ちゃんが血相を変えて一歩踏み出している。
私はあわててお兄ちゃんの腕にすがった。
「ちょっと、どうしたの⁉ 斗真くんは私の友達だよ⁉」
幼いころからお兄ちゃんと一緒に稽古をしてきたからわかる。
今、お兄ちゃんは斗真くんに技をかけようとしてたっ!
いきなりなんでそんなことをしようとしたのかがわからない。
すると、お兄ちゃんはさっと身をひるがえした。
「もう行くぞ。こんなとこで道草食ってる暇はない」
「え、ちょっと!」
そっちは教室の方向じゃないよ!
あわててついていくと、お兄ちゃんはこわい顔をしてた。
「しばらくあいつには近づくな。嫌な予感がする」
「予感って……!」
そんなことでお兄ちゃんは斗真くんに何かしようとしてたの?
ところが大聖も私の隣でうなずいてる。
「斗真が運動神経がいいのは知ってたけど、さっきのは異常だろ。俺には太刀打ちできないような速さだった。何か理由があって学校では隠してた、としか考えようがない」
大聖まで!
私は額にしわを寄せる二人の前に立つ。
「ちょっと待ってよ。斗真くんが悪い人だって言うの? 東雲が戦ってるような」
「その通りだ。まだ可能性があるとしか言いようがないが。お前は斗真と何の話をしてたんだ?」
「……」
私はうつむいて何も言えなかった。
次期リーダーだって勝手に決められただけで、友達とも話せないの?
そんなのって……そんなのってあんまりだよ!
ふつふつと湧き上がっていたものが一気にあふれていく感覚がした。
「そんなの、私信じない。
お兄ちゃんたちはわかってないよ。兄妹が兄妹じゃないって言われて、呼び方も態度も全部変わって! その上友達まで制限されなきゃいけないの?
少しは私の気持ちにもなってよ!」
目に涙がにじんで視界がぼやける。
お兄ちゃんたちが少しひるんだような気配がした。
「お嬢……、仕方ないんですよ。私たちにはお嬢を守る使命があります」
「違うよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはただ命令されてそのまま動いてるだけ。抗おうともしてない。自分がしたいこと、ちゃんと考えたことあるの?」
「それは……」
お兄ちゃんは口をつぐんで顔をそらす。
私は続けて大聖に目を向けた。
「大聖もだよ。平気な顔して、わからないって言ってちゃんと答えるのを避けて。ほんとは心の中ではわかってるんじゃないの? 自分の気持ち、少しは大事にしなよ」
大聖はハッとしたように目を見開いた。
二人とも東雲のために頑張ってるのはわかる。だけど、それだけでいいのかな?
自分で選んだ自分の人生を歩んでほしい。
二人がわかってくれたらいいのに。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
頬を伝った涙がぽたっと地面に落ちてしみこんでいく。
誰も何も言おうとはしなかった。
「えっ?」
「二人だけで腕試ししよ。面白そうじゃない?」
あはっと笑うと、パッと後ろに退いた。
「そんなに警戒しないでくださいよ。言ったでしょう? 友達だって」
見ると、お兄ちゃんが血相を変えて一歩踏み出している。
私はあわててお兄ちゃんの腕にすがった。
「ちょっと、どうしたの⁉ 斗真くんは私の友達だよ⁉」
幼いころからお兄ちゃんと一緒に稽古をしてきたからわかる。
今、お兄ちゃんは斗真くんに技をかけようとしてたっ!
いきなりなんでそんなことをしようとしたのかがわからない。
すると、お兄ちゃんはさっと身をひるがえした。
「もう行くぞ。こんなとこで道草食ってる暇はない」
「え、ちょっと!」
そっちは教室の方向じゃないよ!
あわててついていくと、お兄ちゃんはこわい顔をしてた。
「しばらくあいつには近づくな。嫌な予感がする」
「予感って……!」
そんなことでお兄ちゃんは斗真くんに何かしようとしてたの?
ところが大聖も私の隣でうなずいてる。
「斗真が運動神経がいいのは知ってたけど、さっきのは異常だろ。俺には太刀打ちできないような速さだった。何か理由があって学校では隠してた、としか考えようがない」
大聖まで!
私は額にしわを寄せる二人の前に立つ。
「ちょっと待ってよ。斗真くんが悪い人だって言うの? 東雲が戦ってるような」
「その通りだ。まだ可能性があるとしか言いようがないが。お前は斗真と何の話をしてたんだ?」
「……」
私はうつむいて何も言えなかった。
次期リーダーだって勝手に決められただけで、友達とも話せないの?
そんなのって……そんなのってあんまりだよ!
ふつふつと湧き上がっていたものが一気にあふれていく感覚がした。
「そんなの、私信じない。
お兄ちゃんたちはわかってないよ。兄妹が兄妹じゃないって言われて、呼び方も態度も全部変わって! その上友達まで制限されなきゃいけないの?
少しは私の気持ちにもなってよ!」
目に涙がにじんで視界がぼやける。
お兄ちゃんたちが少しひるんだような気配がした。
「お嬢……、仕方ないんですよ。私たちにはお嬢を守る使命があります」
「違うよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはただ命令されてそのまま動いてるだけ。抗おうともしてない。自分がしたいこと、ちゃんと考えたことあるの?」
「それは……」
お兄ちゃんは口をつぐんで顔をそらす。
私は続けて大聖に目を向けた。
「大聖もだよ。平気な顔して、わからないって言ってちゃんと答えるのを避けて。ほんとは心の中ではわかってるんじゃないの? 自分の気持ち、少しは大事にしなよ」
大聖はハッとしたように目を見開いた。
二人とも東雲のために頑張ってるのはわかる。だけど、それだけでいいのかな?
自分で選んだ自分の人生を歩んでほしい。
二人がわかってくれたらいいのに。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
頬を伝った涙がぽたっと地面に落ちてしみこんでいく。
誰も何も言おうとはしなかった。


