家に帰ると、玄関にいっぱい靴が散らばっていた。

 こんなにたくさんの……お客さん?
 隣の道場はやけに静かで、かわりに和室からお父さんの声が聞こえてきた。

「皆も知っているように、街の平和が揺るがされている。黎明の東雲もより一層気を引き締めていかねばならん」

 東雲の話?

 私はふすまの隙間から部屋の中を覗いてみる。

 こっちを向いて立っているお父さんと、その周りに図体の大きな大人たち。

 みんな東雲の人たちなんだろうか。

 お父さんの顔はいつになく険しい。

「今回暴走しているのは西明かりというグループ。最近現れたやつらだ」

「リーダーはご存じなんですか、西明かりのこと」

「いや、詳しくは……」

 お父さんは小さく首を振る。

 そういえば、先生も朝、そんなこと言ってたかも。夜は危ないから気をつけろって。

 もしかしたら、このこと?

「私たちとしても、今後の動きに注意して……、そこにいるのはみくか?」

 ふいにお父さんが顔を上げた。

 お父さんの声に、周りの大人たちもこっちを振り向く。

 あ、やばっ。

 お父さんとはあの時逃げ出したまんまだ。きっと婚約者候補のこと説得しにくるに決まってる……!

 私は視線を感じながらそーっとふすまを閉めて、そそくさと立ち去った。