「……わかんねえな。物心ついた時にはもうお前んちにいたし。親が決めたことだから」

 さらっといった言葉に私はハッとした。

 そっか。私が知らなかっただけで、大聖も律兄ちゃんもずっと前から東雲のことを知ってたんだ。それも、私の婚約者候補になるっていう運命を背負って……。

 私はいたたまれなくなって視線を落とす。

「ねえ、もう元に戻れないのかな? 次期リーダーの話も婚約の話も、全部なかったことにできないのかな」

「それは無理ですよ、お嬢。俺たちはこのために今まで生きてきたんですから」

 答えた律兄ちゃんは眉を下げてなんだか悲しそうな顔だ。

 そんなこと言われても、私は今まで通り家族として過ごしたいの!

 私はむっとして、靴を履き替えると大聖の腕の下の空いた隙間をくぐった。

「隙あり!」

「あ、おい!」

 私は勢い良く駆けだしていった。二人も追いかけようとするけど、まだ上靴なのに気づいて歩みを止める。

「お嬢! 話はまだ終わってませんよ!」

「私はお嬢なんて名前じゃない!」

 なんだか悔しくて唇をかむ。

 もう二人は今までの二人じゃないんだ。

 頭ではそうわかってるのに、感情が追い付いていかない。