フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜

社長賞を取れたのは、並々ならぬ努力と周囲への気配りの積み重ねがあるのだということに今さらながら思い知る。
 
外面男なんて、軽々しく思った自分がなんだか恥ずかしく思えた。

「それでもすごいです」と言うと伊東がちゃかすように目を細めた。

「今度こそ惚れたな?」

「ま、まさか! だからそんなにちょろくないですしー」
 
そんな話をしているとエレベーターが到着する。すでに一回分の乗客として集められているのを見回して、楓は呟いた。

「これ全員乗るの?」

「でかいんだよ」
 
エレベーターのドアが開き、順番に中に入る。
 
周りにつられて歩き出すと背中と二の腕に伊東の手が添えられた。
 
なんだろう?と首を傾げながら促されるように中に入る。壁に背を向けて立ち止まり、彼が自分をかばってくれたのだと気がついた。
 
ふたりの間に空間的な余裕があるわけでなく、身体はピタリとくっついている。それでも背中が壁になっているというだけで随分と体勢が楽だった。
 
コロンなのかシャンプーなのか、伊東からは少し甘いようないい香りがする。楓より頭ひとつ高い位置にある伊東の顔が、普段より格段に近くにあるせいか、端正な顔立ちなのだとより意識してしまう。
 
楓の胸がドキンと跳ねた。
 
そして次の瞬間首を傾げる。
 
これはいったいなんのドキドキ?
 
待ち合わせの時の緊張はもうほぐれたはずなのに、やたらと心臓が忙しくいつもより熱心に血液を楓の全身に送り続けている。
 
おかげでなんだか少し暑い。
 
単純に考えれば、伊東と急接近しているからだろう。
 
でも毎日満員電車で通勤している楓にとっては、男性とこのくらいの急接近はよくあること。顔見知りかそうでないかだけの違いで状況としてはほとんど同じはずなのに。
 
こんなにドキドキするのはなぜだろう?
 
伊東からなんかいい匂いがするから? 
 
そこで楓ははっとする。
 
もしかしてこれが恋のトキメキというやつだろうか。
 
さっそく擬似体験しちゃってる?
 
え、もう? 早くない?
 
でもそう考えてみれば、この状況、満員電車とは全然違う。