修復魔術士の孫

 副メイド長のあとについていき、ドロシーとルルは恐る恐るマンナカ城の中に入っていった。
 ドロシーたちが城に入ると、だいぶ広い吹き抜けのエントランスを通るようだ。

 エントランスを抜けて、廊下(ろうか)を始めた時、ドロシーは副メイド長にトイレの場所を聞いたようだ。階段の近くにあったトイレから戻ると、ドロシーは少しだけ緊張が解けたような気がしたらしい。


「では……。これから、宰相補佐官(さいしょうほさかん)の御一人である、アルフィー・コリン様の執務室へ行きましょう」

 一行が階段の前まで来た後に、副メイド長は業務の指示役が居る部屋まで、ドロシーたちを案内する予定なのだ。
 皆がマンナカ城の三階に着くと、ドロシーたちは再び廊下を歩いて、目的地に向かった。



 そうしてドロシーたちは小さな(とびら)の角部屋に到着した。
 副メイド長が扉をノックして、部屋の中に居るらしい人物に声をかけた。すると、部屋の方から若そうな男性が大きな声で答えたようだ。

「ドロシー様、どうぞ中にお入りください。私はここで、では……」

 そう言って、静かに部屋の前から去っていく副メイド長を見届けると、ドロシーは目の前の扉をノックした。


「……失礼致します」

「ドロシーさん、来てくれてありがとねっ。ジョセフ様から聞いていると思うけど、俺がアルフィー・コリンだよ。今日は(よろ)しく。あっ……と、使い魔のサビ猫さんも!」

 明るく朗らかな声でドロシーとルルに挨拶(あいさつ)をしたのは、二十代らしき筋肉質の青年だった。
 火の色と似た真っ赤な()に、眼と同じような色の外跳(そとは)ね短髪の癖毛である。身長はあまり高くないようだ。

「あとっ、どうか肩の力を抜いて、業務をしてくれよ? 俺、ホッポウ魔術学院に居た頃は、君が知ってるサイモンとよく遊んでたんだ。学年は二つ上だよー。それに、俺の親父も昔から、ジョセフ様と職場が同じでさ。まっ、親父は給仕だけどね~」

「そうだったんですねっ!」

 これは、ドロシーにとって初耳だった。宰相(さいしょう)であるジョセフからは、送られた依頼状(いらいじょう)を通して聞いていなかったので、彼女は非常に驚いた。

 また、ドロシーとの会話を続けながら、アルフィーは爽やかな笑顔を崩さなかったので、ドロシーだけでなく、ルルも彼に対して良い印象を持ったようだ。

「で……、二ヶ所の書庫にある古い書類の修復をお願いするから、これから案内するよ。まずは近い方、ここ中央区画の二階にある書庫に行こうか」

「「分かりました。よろしくお願い致しますっ」」

 ニッと笑い白い歯を見せながら、アルフィーが言葉を続けると、ドロシーとルルは大きな声で応えた。
 そして、アルフィーが自身の執務室から出ていくと、ドロシーとルルは彼のあとをついていったのだった。



 二階の書庫に着くと、アルフィーは持っていた(かぎ)ですぐに出入り口を開けた。

埃臭(ほこりくさ)いかもしれなくて、ごめんよっ! 直して欲しい書類は木箱に入れて、あっちに置いてあるんだ。……来てくれるかい?」

 アルフィーと一緒に、ドロシーとルルが本棚から離れた広い空間に行くと、多くの書類が詰められている五つの木箱が置かれていたようだ。

(お~、かなり黄ばんでいるな。文字も小さいから、書くのも読むのも相当大変そう……)

 ドロシーは全ての木箱に入っている分の、傷んだり汚れたりしている書類をざっと確認すると、手際良く修復をしていった。頭の中で、完成してから間近で文字が読みやすいくらいの、綺麗(きれい)な状態の書類をイメージしながら、少しずつ業務を進めていったようだ。

 業務をひと通りこなし、書類から放たれていた青い光が完全に消えているのを目視し終えると、ドロシーはアルフィーに業務完了の報告をした。

「おおっ、早かったな!! ありがとう。もう一つの書庫もよろしくっ!」



 マンナカ城の中央区画にある書庫から離れると、ドロシーたちは南区画にある別の書庫に向かった。南区画の建物は、中央区画とは別棟(べつむね)のようだ。

 城の中央区画から野外にある渡り廊下に出ると、ドロシーたちは多くの植物が植えられている中庭の横を通った。
 九月までは色とりどりの様々な花が咲いていたのだが、今の十月ではダリヤやコスモスのみがひっそりと咲いているようだ。紅葉した木々の間で、数の少ない花々が秋風に当たってゆらゆらと揺れている。


 屋根のある長い渡り廊下の端まで行くと、二人と一匹は南区画の建物に入っていった。
 南区画にあるのは、書庫と備品庫、それから晩餐会(ばんさんかい)等に使ういくつかのホールだけらしい。

 広いホールの前を通過して、廊下を歩いて奥に行くと、ドロシーたちは依頼のあった二つ目の書庫に辿(たど)り着いた。そこは中央区画の書庫よりも広く、天井が高いらしい場所のようだ。

 ドロシーは木箱の中にある書類だけでなく、棚に置いてあった書類も修復をした。中央区画のものより数が多く、黄ばみや痛みがひどい状態であったが、彼女は段取り良く、次々と業務を進めることができたようだ。
 二回目の業務だったからか、ドロシーは緊張し過ぎること無く、中央区画に居た時よりも自然と集中力が上がっていたのだった。