ヒノキ村等の村々は山の(ふもと)か、山の中にあるため、天気が変わりやすい。
 また、イシヅミ町に比べて、にわか雨や大雨も多い。



 トーコが再び、〈コモレビの滝〉の横の温泉に行ったのは、数日後であった。その日は、太陽が南中してから少し過ぎた、昼間にエドガーに送ってもらった。

 そして、エドガーはトーコを岩の上に降ろすと、どこかに飛んで行ったようだ。


 のぼせてしまう前に温泉から出ると、トーコは綺麗(きれい)(たた)まれたチュニカを着た。
 平らな岩に腰かけて、ひと休憩し始めた時、トーコの後ろから聞いたことのある声がした。

「今日も来てたな」

「オッ……オズワルドさんっ!」

 驚いて、声の主の方を振り向いた後、トーコは道側に体を向き直した。

「アイツは居ないのか?」

「あっ、エドガーですか? おやつ代わりの間伐材、食べに行っています」

「……そうか」

「申し訳ありません、まだエドガー戻ってきてなくて……。これから温泉に入られるのに、お邪魔になってしまいましたね」

「ちょうど、アンタに聞きたいことがあってな。……気にしなくていい」

「え……あっ、はい……?」

 オズワルドの顔を直視すると、トーコは心臓の鼓動(こどう)が速くなった。澄んだ(みどり)色の()に吸い込まれそうな感覚もした。

「アンタの家に招かれた時に思ったんだが、なぜ自分の髪と眼を、卑下(ひげ)するんだ?」

 思いもよらぬ質問をされて、トーコは出てくる言葉がすぐに見つからなかった。
 それと、オズワルドが鼻筋の通った端整な顔であると気付き、顔全体が少し赤くなった。

「あ……、えと。それは多分、小さい頃、王宮で暮らしていた時期に、グレース叔母さんや侍女の人たちに、いろいろ言われてたから、でしょうか。()()()()()()()()()()()だと……。
 それに、町の人たちからは、興味本位で、自分の外見をジロジロと見られたことが多くて……。何度も息苦しかった記憶があるから、かな……」

 オズワルドは、トーコの話を聞いて、淡々と言葉を続けた。

「黒は邪気を払う、()()()()だ」

 オズワルドが発する言葉は、徐々に熱が入っているようだった。

「それにアンタの眼、黒翡翠(くろひすい)みてーに、()()()()()()と思う。……だから、堂々と胸を張れ」

 トーコは恥ずかしそうに(うつむ)いた後、「……はい」と小さく返事をした。



 一方、実はエドガーは、オズワルドがトーコに話しかけた後に、温泉のすぐ近くまで来ていた。

(アヤツに食って掛かってやりたいが、()えて壊す必要の無い雰囲気であることは分かる。だが、ヴヴヴゥーンン……)

 エドガーがいつ降りていこうか迷っていたことを知る者は、当事者以外、誰も居なかった。