トーコとオズワルドが婚約してから、数週間後の出来事だ。
 太陽が西に向かい始めて、夕方前の少しだけ(かげ)ってきた頃、一羽の伝書鳩が、トーコの家に手紙を届けに来た。


 夕方過ぎの、トゲトゲ山脈の巡回(じゅんかい)の合間の時間に、家の中に居たトーコは伝書鳩を見つけると、玄関すぐ横の窓から手紙を受け取った。
 その後、手紙の差出人を見て、トーコは動揺しているような顔になった。

 いつもの寝室で、エドガーはウトウトしていたのだが、流石にトーコの様子の変化に気が付いた。

「急に暗い顔になったな。誰からの手紙だ?」

「うん……。現国王陛下から、みたい……。しかも、陛下が直々に、文字を書いていらっしゃっる、な……」

「何だ、アイザックからか。……なのだが、収穫祭の招待状なら、通年もう少し遅い時期のはずだから、きっと何かあったのだろう」

「……そうだね」

 
 トーコが台所のテーブルの上で、手紙の封筒を開けようとした時、玄関からノックする音が聞こえた。

 彼女が玄関を開けると、そこにはオズワルドが立っていた。大量のハーブらしいものが入った、重そうな(かご)を背負っているようだ。

「日の入り前には、詰所に戻るつもりだが、少しだけ……いいか?」

「大丈夫だよ、どうぞ~」

「エドガーも悪いな。入らせてもらう」

 軽く()め息をついたエドガーだったが、オズワルドを前にしても、珍しく落ち着き払っていた。

「『悪い』など、言わなくて良い。……散歩がてら、間伐材で小腹を満たしてくる」

 すると、エドガーは以前のように、取っ手を回し装置を動かしきって、飛びながら外に出た。

「外からは(とびら)を閉められぬから、後は頼んだぞ」

 巨大な扉くらいの空間、家の真上からトーコたちに声をかけると、飛んだままだったエドガーは空へと向かった。

(もしかしてエドガー、気遣(きづか)ってくれたのかな? オズワルドさんのこと、あまり気にしなくなったっぽい? ……う~ん。でも、まいっか!)

 トーコが取っ手を回し始めたのを確認すると、オズワルドは背負っていた籠を床に置き、ひと息ついたのだった。