大学の教室。一限目。
咲がひとりで登校すると、琥珀が咲に話しかけてくる。
琥珀「花子さん。おはよ」

咲、静止。
咲(え、わたし…?いや違うよね、花子さんって言ってたし)
琥珀「花子さん」
琥珀が咲のことを覗き込んでくる。
咲(やばいこれ)
咲(わたしだ……)
咲、教室全員の注目の的になり、咲は石になる。
取り巻きの女の子も石になり、教室騒然。
琥珀の隣にいた魁李もびっくりしている。

咲「え、えーと……」
咲、ギ・ギ・ギとブリキのように振り向く。
魁李「あんた、花子っていうの?」
咲「いや、わたしは花子じゃ……」
と、咲は魁李のほうに顔を向けて、赤くなる。
咲(この人…!)と、先日の茶色のお弁当をあげたシーンを思い出す。
咲「ひ!そ、その節は…!…って、おぼえてないですよね」
魁李「はあ?おぼえてるに決まってんだろ。あの弁当の味…すげー刺さった。そう簡単に忘れられるかっての」
咲「え!?あ、いや……」咲、余計に赤面。

取り巻き女の子たちさらに唖然。
魁李とも知り合いなの?!てか弁当って何!?キーッとガヤガヤしている。

琥珀がナチュラルに咲の隣の席に座る。距離感が近い。
琥珀「花子さん、いつも席端っこだよね。講義見づらくない?」
咲「え?あー……、いつも開講ギリギリに来るんで、席空いてなくて、そうなってます、ね……」
琥珀「そうなんだ、バイト? 忙しいんだっけ。家帰るのも毎日遅いもんね」
咲「ハ・・・?」

取り巻きの女の子たちが魁李を問い詰めているのを遮って、エマが鬼の形相になっている。
エマ「魁李は後で問い詰めるとして、琥珀までナニ!?昨日まであの子にまったく興味なかったじゃん」
魁李「あー……、そうだっけ」
魁李(あの子どころか、琥珀はおまえらにもまったく興味ないけどな……)
エマ「てか、家帰るの遅いって……なんで琥珀がそんなことまで知ってるの?」

咲聞こえてる。
咲メガネの中でダバ泣き(デフォルメ)
咲(そんなのわたしが聞きたいわー!)
咲(てか、この王子(*琥珀のこと)、お弁当の人(*魁李のこと)に負けず劣らずイケメン!キラキラしすぎて直視できない……!!)

そこに教授が入ってきて、はじめますよーと言う。
必修の英語の講義。咲はノートを慌てて出して、えーと……とテキストと照らし合わせる。
琥珀その咲を見て、咲にぐっと近づいてくる。
咲は顔を真っ赤にする(な、なに!?)

すると、琥珀が咲のノートを指差す。
咲(ち、近い近い!いきなりなんでしょう!?)
琥珀「ここ、fromじゃなくてwithかも。don't get away with thisで……」
琥珀「『これで済むと思うなよ』」
超至近距離で琥珀と目が合い、咲、一瞬時が止まる。

魁李「どこ?オレも教えて」
琥珀「えーとねー」
琥珀は魁李の方に向き直る。咲はびっくりして何も言えない。
同じクラスのモブが当てられて、get away fromと答え、教授に間違いを指摘されている。
咲は真っ赤になって俯くだけ。
これが恋に落ちる瞬間の1歩目だった。
*咲は無自覚。

〜居酒屋バイトに場面転換

咲(居酒屋バイト、あの日以来だけど……)
咲(来るの本当につらかった泣 よく出勤した!咲、えらい……!)
咲は更衣室で「><」と自信をたたえ涙の表情。
エプロンをつけ、更衣室を出ようとすると、
キッチンのほうから、この間咲に「帰れ」と言ったスタッフAがほかのスタッフBと話しているのが聞こえる。
スタッフA「前から思ってたんすよ、辞めてくれないかなって」
スタッフB「葉月(はづき)(咲の苗字)さんかあ。あんまり一緒に入らないからわからないけど」
スタッフA「とにかく俺もう無理っす。ていうか、あいつ居酒屋のバイトに合わないっすよ。いるだけで店の雰囲気が暗くなる」
スタッフB「うーん…」
咲、聞いちゃだめだと思って、その場から離れようとするが、モップを倒してしまい、
スタッフたちに気付かれる。
スタッフB「あ、葉月さん…!」
咲「す、すみません。あの、じ、実は今日、朝から少し熱があって…!や、休ませてもらってもいいですか」
咲「当日に、急なことで、すみません……」
咲は俯いてお辞儀をし、表情が見えない。
スタッフはふたりとも顔を合わせ、Aが大きなため息をつく。
スタッフA「帰れよ。熱出してるやつ働かせらんないし。ねえ、Bさん。」
スタッフB「え、ああ…それはそうだけど」
咲「すみません!失礼します!」
そう言って、もう一度お辞儀し、咲はエプロンをつけたまま荷物をもって外へ駆け出した。
走っていると涙が出る。
咲[バイト、ドタキャンしたの初めてだ]
咲[絶対ウソだってバレてたし、呆れられたよね]
咲[でも…あんなふうに思われてたのか…]
スタッフAの「いるだけで店の雰囲気が暗くなる」を思い出して、ぐっと拳を握る
すると、スマホの通知音が鳴る。
画面を見ると母から、
お母さん〈今日は暑いね。咲は大学生活は順調ですか?〉
と来ている。咲はそれを見て急に涙が止まらなくなり、道端で座り込んでしまう。
咲のことを白い目で見る人たちが、避けて歩く。
咲はしばらく泣いている。

すっかり暗くなり、ぐすぐすと涙をすすりながらオンボロアパートにたどり着いた咲。
部屋にカギを差し込もうとするも、涙で鍵穴にうまくカギを差せない。
咲「うう、なんで、こんなこともできないの」
咲「こんなのもできないから、わたし、わたし…何もかもうまくいかない…」

えんえんと泣いて、扉に泣き縋っていると、階段を上がってきた琥珀と鉢合わせる。

琥珀「花子さん…?ど、どうしたの?そんなに泣いて」
咲「わたしなんか、ブスで、暗くて、友達もできなければバイトもうまくいかないし」
咲「なんの取柄もない、茶色のお弁当なんだあ~…っ」
座り込んで泣いてしまう咲に琥珀が駆け寄り、しゃがみ込む。
琥珀は視線を合わせて、少し迷ってから、
琥珀(花子さん、お家入れない…?)
琥珀「えっと…うち、おいで…!」
咲「ふぇ……?」