悲劇のセイレーンにささやかな愛を




『私は私のしたいように生きてる、ただそれだけだから』



俺の目の前にノートを差し出した彼女はあまりにも真剣で、どこか悲しみが含まれた目をしていた。

息を呑んだ。

何も言えなくなって、固まった。



「澪、ごめん待たせて……秋斗?何してんだ」



何秒経っただろうか。

扉が開いて紫水が入ってきて、やっと我に返った。



「……忘れ物、したんだ。じゃ、また明日な」

「ははっ、相変わらずバカだな。澪、帰ろ」



二人が教室を出て行ってからも、その衝撃は収まらなかった。





そうだ。

忘れ物、したんだ。

自分の『芯』という忘れ物を。

何年もずっと、どこかに置いてきてた。

探そうとも、探したいとも思わなかった。

それを見つけてくれたのは、

澪ちゃん、君だったんだよ──。