和服の女性に、屋敷へ案内される。
 客間に連れてこられたところで、「廊下の突き当り左に行くと、庭園がございます。ご興味がありましたら、是非立ち寄られてください」と言われた。
 庭園か……面白そうだな。
 「ありがとうございます」と微笑みかけると、女性は顔を真っ赤にして部屋から出ていった。
 ちなみに、じいやは両親の迎えに行ったので、いない。
 ……行ってみようかな、庭園。
 静かに立ち上がり、そっと客間から出る。
 えーっと、突き当り左だったよね。
 言われたとおりに行くと、これまたびっくり、立派な和風庭園が広がっていた。
 近くに置いてあって下駄を借りて、庭園に入る。
 そこには秋らしい花や紅葉、竹水栓など、写真でしか見たことのないものがあった。
 家の屋敷は洋風だから、こういうものを見るのは貴重だ。
「――あれ?こんな美人いたっけ?」
「うわっ……」
 その声に、私は肩を震わせて振り返った。
 視線の先にいたのは、綺麗な男の人だった。
 金色の髪、くっきりとした二重の目……一見チャラそうに見えるのに、私には儚く、今にも散ってしまいそうな桜のように見えた。
 ん……って今、この人『美人』って言った?【女子高の王子様】と呼ばれる私を?
「おーい。そこの美人さん、聞いてる?」
「え?今、私に話しかけてました?」
 突然話しかけられて驚く。
 急に何なのこの人……。また『美人』って……。
「うん。バリバリ話しかけてるつもりなんだけど。あ、もしかして美人さんあれ?今日、家の親に会いに来た人?」
「は、はい。まあ、ご両親だけじゃないですけど……」
 ”契約”の話を知っている、そしてこの人の「親」……ということは、この人が私が今日会いに来た相手だろう。
 ……と、私の予想は大きく外れる。
「親だけじゃない?……ああ、俺の弟に会いに来たわけね」
 その衝撃発言に数秒フリーズする。
「え……?弟……?」
「そ、弟。あ、まさか俺かと思った?」
 いやいや、そりゃ思うでしょうよ。
「まあ……」
「ふーん。そうなんだ。あ、でもそろそろ部屋戻った方がいいよ。美人さんの親も、家の親も弟も、そろそろ来るだろうし」
「あ、そうですね。じゃあ戻ります」