「どうしよう……」
 いつの間にか、放課後になってしまった。
「今日という日に限って、どうして……」
「おうおう、元気出せって!」
「痛いって……」
 思いっきり背中を叩いてきた朝陽を見上げる。
「そんなに緊張せんでも、大丈夫っしょ!なるようになるさ」
「そうかねぇ」
 仕方ない。重い体を引きずるように立ち上がる。
「じゃ、いってらー」
「ん、行ってくる」
 学校の外には、見慣れた車が止まっていた。
「何?あの高級車」
「ベンツ?ポルシェ?」
「もっと高いのじゃない?」
「え、待って!王子が乗ってるよ!」
 はあ、だから、人がいないところに止めてね、って言ったのに……。
 車のドアを閉めて早々、運転席に話しかける。
「じいやさあ、目立たないところで待ってて、言ったよね?」
「申し訳ありません。お嬢様。急ぐ必要がありましたので」
 そう言って、運転席のじいやは、柔らかく目じりを下げて微笑んだ。
 こりゃ反省してないな……。
 やっぱり徒歩で帰りたかった。
 それができない理由があるのは分かってるけど……。
 憂鬱な気持ちだけが、降り積もっていった。
                       
「お嬢様、到着しました」
「うん、ありがとう」
 車から降りたら、そこは、それはそれは立派な神社だった。
「お待ちしておりました。如月氷翠様。まだ、ご両親はいらしておられませんが、ごゆっくりなさってください」
 和服の女性が出てきて、私たちを迎えてくれた。
 そう、私たちが用があるのは、この神社ではなく、その隣にある、神社の何倍も豪華なお屋敷であった。