私の言葉に、お母さんは目をぱちくりさせた。
「大和君のお兄さん……和泉君のことね?ええ、確か……部活で来ないんじゃなかったかしら」
「そう……」
 私の希望は、呆気なく打ち砕かれた。
 ねえ、和泉さん、部活なんて入ってるの?本当に?
 ……どうしても、来てくれないの?
「でも、どうしたの?急にそんなこと聞くなんて……」
「いや、気まぐれだよ」
 お母さんの言葉を遮るように、言った。
 決心が、揺るぎそうになるから。
「そう、ただの……気の迷いかな」
 いつかこの恋を……忘れることができるはずだから。

「では、今から、【ヴァンパイア】如月氷翠と、【神の血を継ぐ人間】津城大和の、【夫婦の契約】の儀式を始めます」
 お父さんの声で、儀式は始まった。
「この儀式は、我がヴァンパイア一族の存続に関わる、とても重要なものです。この儀式に協力していただいた津城様。誠に感謝いたし
 ます」
 津城ご夫婦に頭を下げ、お父さんは前に向き直る。
「初めに、津城大和の血の贈呈を行います」
 目の前で、儀式が淡々と進められていく。
 真っ赤な血が、器の中に垂らされていくのを、私はボーッと見つめていた。
 ああ、終わるんだ。ここで、私の恋は。
「次に、如月氷翠による血の……」
 お父さんの声が遠くに聞こえる。
 私を置いて、儀式が進んでいく。
 止まってくれない、時間も、何もかも。
 差し出された器を見つめて、私はそれを受け取る。
 さよなら、私の恋。
 さよなら、和泉さん。
 一思いにその血を一口、口に流し込む。
 ああ……これは……。
「不味い……」
「「「「「え……」」」」」
 途端に、自分の失言に気づいた。