和泉さんへの思いが、恋心だと知ってから、2週間と少し経った。
 私の誕生日まで、あと、丁度1週間だ。
 一週間後に、私は、和泉さんの弟、大和君と契約を交わす。
 その前に、私は、この家のしきたり、というか言い伝えに文句がある。
 契約のこともあるけれど、それじゃなくて……。
「なんで、大和君じゃなくて、和泉さんを好きになっちゃうのぉ」
 いや、私が聞いてた話だと、『予言によって出会った二人は、何となくお互いに好きになって、自然と上手くいく』って感じだったんだけど。
「おかしいじゃん!上手くいくどころか、みんなに知られたらやばい状況じゃん‼」
「どうしたんだ!氷翠!大丈夫か!」
 勢いよく部屋に入ってきたお父さんに、こちらが驚く。
「びっくりした……。いや、お父さん、何にもないから大丈夫。出て行っていいよ」
「その言い方は酷いだろ!」
 仕方ないでしょ……。こっちは初恋が実りそうになくて落ち込んでるんですけど。
「可愛い娘に何かあったらと……お父さん心配で心配で……」
「へー。こんな可愛げの一つもない格好させといて、よく言えるね?」
 私の言葉に、お父さんはぐっと言葉を飲み込む。
「そ、それは……氷翠が可愛すぎるから、婚約者以外の男に言い寄られないように……」
「はいはーい、お気遣いどーも」
「いや、氷翠が可愛いのは本当で……」
 はあ、仕方ないなぁ。
「お父さん、嫌われるよ?」
 困ったときには奥の手だ。
 お父さんに向かって、そう言うと、力が抜けたように部屋を出ていった。
 「ごめんね……お父さん、きもいよね……」とか言いながら。
 まあ、さすがに言い過ぎたかな……。
 少し反省した。後で謝っとこう。
 ごめんね、お父さん。今余裕なくて。
 戸惑ってるんだ。自分でも。
 初恋で、その相手が婚約者のお兄さんで。
 叶わない、って言われてるみたいで。
 ごめんね、お父さん。
 ひどいこと言って。

 ごめんね、和泉さん……。
 好きになってごめんね……。