「見て、王子だよ……!」
「今日もお美しい……!」
「女子高の私たちの唯一の癒しよね」
 今日も私・如月氷翠は全身に突き刺さる視線の中、校門をくぐった。
 でも、少しだけ違うと感じるのは、今日が”運命の日”だからだろう。
「よ!王子。今日も人気だねぇ」
「やめてよ。からかわないで」
 声の主は、振り返らずとも、だ。
 元気よく私の肩を叩いてきた、幼馴染の朝陽に視線をやる。
「いやー。ごめんごめん。どーしても、ヴァンパイアの爆モテ幼馴染がいると、イジりたくなっちゃうわけよ」
「ちょ、しー……!」
「あ、ごめん」
 本当に、朝陽といると、ハラハラさせられる。
 そう、私はヴァンパイアである。
 ヴァンパイアは遥か昔、この国の頂点に君臨していた。その理由は、圧倒的な美貌、身体能力、知能などによるものだ。だがしかし、そんなヴァンパイアの政治に不満を持つものも多かったのも事実。その者たちにより、ヴァンパイアは破滅に追いやられた。
 まあ、その生き残りが、私のようにいるわけだけれど。
 それでも、未だにヴァンパイアに因縁を持つものは多い。だからこうやって、正体を隠して生活しているわけだ。
 朝陽にも隠していたのだけれど、小2の時、家に遊びに来ていた朝陽が、私の両親の話を聞いてしまったらしい。
「ねえ、見て。王子と姫が話してる」
「やっぱり、あの二人の組み合わせは最高よねえ」
 その声に小さくため息をつく。
 私の容姿は、黒髪のショートに、女性にしては高いであろう身長、不気味は程に赤い目……といったところだろう。
 対して朝陽の容姿は、性格とは違い、可愛らしい顔に、小さめの伸長、ふわふわの髪の毛と……姫に見えてもおかしくない。
 ……そして、女子高に通っている私たちは、【女子高の王子様】【王子様の姫様】と呼ばれているわけだ。
「そういえば、今日なんでしょ?”契約の日”」
 朝陽の言葉に小さくうなずく。
 嫌なことを思い出した。いや、嫌なのか?もうそれすら分からない。
 ただ、私の人生が、今日を境に変わってしまうかもしれない、それだけだ。