その時、和泉さんはいきなり顔を険しくして言った。
「もしかして……血?」
 その言葉を聞いた時、全身が冷たくなった気がした。
 何だ、やっぱり、知ってたんだ……。
 そりゃ、そうだよね。でも、何でかな。あなたにだけは、知られたくなかった……。
 和泉さんは、ゆっくりと私を座らせてくれた。
 どこかに行ってしまうのだろうか。
 そうだろうな、こんな未知の生物と一緒にいられるわけ……。
「はい」
「……え?」
 私は呆然として、差し出された和泉さんの手首を見つめた。
 その意味を理解した瞬間、サッと血の気が引く。
「だ、だめですよ……!一般人の血を吸う際、興奮状態のヴァンパイアが必要とする血の量は、致死量に値して……」
「それでも」
 私の必死の説得は、今までで一番低い、少し怒りと心配を含んだ、和泉さんの声で遮られた。
「それでも、血を吸わないと、逆に氷翠ちゃんが死んじゃいそうで、怖いよ……」
 切実で、悲しくなる。
 今にも消え入りそうなあなたの声に、私の胸は締め付けられる。
 どうして、そんな顔するの……?
 どうして、そんな風にできるの……?
 自分を犠牲にしてでも、助けようとするの……?
「それに一応、俺も【神の血】は継いでるから」
 和泉さんはケロッとした表情で、その腕を私に押し付けた。
「ほら、大丈夫だから。君の命の方が大切なんだよ。少なくとも、俺にとっては」
 和泉さんの優しい声につられて、その腕に手を伸ばす。
「ごめんなさい、ありがとうございます。あの、もし、『やばい』と思ったら、突き飛ばして構いませんので……」
 いいのだろうか、あなたの優しさに甘えて。本当に……。
「はは、突き飛ばしはしないよ。大丈夫」
 最後に、和泉さんの優しい声が聞こえた。
「……いただきます」
 カプリと、和泉さんの手首にかぶりついた。
 ……!
 血を少し吸ってから、バッと顔を上げる。
 こ、これは……。
「お、おいしいです……!」
「へ?」
 和泉さんは怪訝そうな顔で私を見た。
「生きた人間の血を吸うのは初めてなんですけど……こんなにおいしいなんて……!やっぱり、和泉さんは神の血を継いでいるんです
 ね。すごく元気になりましたし……!」
「ぷっ」
 和泉さんの笑い声が聞こえて、顔に熱が集まる。
 同時に、自分がものすごい早口でまくし立ててしまったことに気づいた。
 自分の血についてこんなに語られて、きもいよね……。