『一緒に回らないに決まってるじゃないですか……』
『は……?』
 いや、『は?』って言われても……。
『私には婚約者がいますし、そのお兄さんと文化祭を回るなんて、できるわけありません……!』
 そりゃ、そうでしょうよ。
『いやー……。にしてもさ、その言い方は酷くない?』
 頭をかきながら、納得いかない、という顔をしている和泉さん。
『酷くない?って……。試すような言い方してきたのどっちですか』
『そうだけどさ……』

 腹いせなのか何なのか、今その話をするのは実にやめてほしい。
「お誘い?何のこと?」
「ま、まあ……いろいろと……」
 ほーら、こうなるでしょ!だから、やめてほしいのよ……。
「ん、何か氷翠ちゃん……」
「はーい、お席にご案内いたしまーす」
 これ以上この人に話させたら、ろくなことにならない……。
 私は、少々強引に二人を席に連れて行った後、無事に午前の接客を終えたのであった……。

 あー、やばい。
 ようやく接客終わったけど……これは……。
 接客が終わり、私は人気のない旧校舎に来ていた。
 あそこにいたら、どうなるか分からない……。
 そんな自分を、怖いと感じてしまった……。
 ここまで来たら大丈夫……。落ち着くのを待とう……。
「氷翠ちゃん?」
 その声を聞いて、ふっと体が軽くなった気がした。
「どうしたの?大丈夫?どうしてここに……」
「和泉、さん……」
 旧校舎の教室から出てきた和泉さんん。
 その姿を見た途端、全身に力が入らなくなった。
 あ、倒れる、と思ったところで、和泉さんが抱き留めてくれた。
 暖かく、私よりずっと大きな腕に包まれて、安心感を思える。
「どうした?大丈夫?」
 和泉さんはその言葉を繰り返している。
 あなたこそ、何でここにいるのよ……。
 こんな時にも、憎まれ口を叩きそうになる、自分が恥ずかしい。