文化祭当日、私は午前の接客係だった。
 朝、血を飲むのを忘れていたので、こっそり、トイレで輸血パックを飲む予定だったのだけれど……。
「ない……」
 空っぽになったカバンを見つめ、絶望の声を漏らす。
 どうしよう……。ヴァンパイアってバレたらだめだし……。一般人の血を吸うわけにはいかない。でも夕方まで持つ気がしない……。
 私が血を飲むのは、朝・夕の2回だ。
 よし、両親にお願いして持ってきてもらうしか……。
 藁にも縋る思いで、スマホの画面を確認したのだけれど……。
「嘘……」
 まさかの充電切れ。
 真っ暗になった画面を睨みつける。
 いや、今じゃないでしょ。本当に、やめてよぉ……。
 まさに、絶体絶命。
 終わった……私の文化祭……。

「いらっしゃいませー」
 ……始まってしまった……文化祭が……。
 かなりお客さん来るし、やばいよ、これ……。
 てか、すでにしんどい……。
「えーっと、そこのお兄さん、お願いしてもいいですか?」
 後ろから声をかけられた。
 今年の文化祭は一般参加もあるため、私が女子と知らない人もいるだろう。
「はい、ご注文でしょうか?」
 精一杯の営業スマイルを浮かべると、その人たちは顔を赤くした。
 どーしよ……午後まで持つかな……。
「お、氷翠ちゃんじゃん」
 げ……。そう言って入ってきたのは、いやらしいほどニヤニヤしている、和泉さんだった。
 あ、大和君も一緒にいる。
「なーんで、俺のお誘い断ったのかと思ったら、なるほどねぇ」
「ちょ……」
 その話をいまするなよっ……。

 実はあの、交流会の時……。
『で、どうなの?氷翠ちゃんは。俺と回りたいの?回りたくないの?』
『そ、それは……』