「というか、どうしてここにいるんですか？大和君のお兄さん」
「え？お兄さん？」
　あ、しまった。
　自分の失言に気づいて、さーっと血の気が引いていくのが分かる。
　で、でも……。
「し、仕方ないじゃないですか。名前知らないんだから。それに、あなただって、私のことを『美人さん』って……」
「え？」
　さらに、自分の失言に気づく。
　これだと、私がこの人の名前を知りたい、みたいに聞こえちゃうでしょ！
　私がこの人に名前呼んでほしい、みたいになっちゃうでしょ！
　何とか、どうにか、ごまかせないかと、必死に頭をフル回転する。
「あー、俺の名前ね。和泉だよ。津城和泉」
　予想に反して、あっさり名前を教えてくれたおに……和泉さん。
　綺麗な名前なんだな、と、とっさに思った。
「美人さんはあれでしょ。ほら……そうだ。如月氷翠さんだ」
　ふいに名前を呼ばれたことにドキッとする。
　というか……
「名前、知ってたんですか？」
　私の疑問に、澄まし顔で「まあね」と答えた和泉さん。
「じゃあ、何で……」
「美人だなーって思ったから」
　私の言葉は、和泉さんの恥ずかしすぎる言葉にかき消された。
　『ぼっ』と音を立てそうな勢いで、私の顔は熱くなる。
「第一印象。美人さんのこと見て、美人だなーって思ったから、だよ」
　よくそんなこと言えるな。この人。
　和泉さんは私の顔を見て、にやりと笑った。
「へー……。結構可愛い反応するね、氷翠ちゃん？」
　あー、それ言っちゃうんだ。
　この人も慣れてんだろうな。
　で、でも……。
「仕方がないじゃないですか。男の人からそんなこと言われるの、今までなかったし。ドキッとしちゃったんですよ、い、和泉さん
　に……」
　どうせ、またからかってくるんだろうな、と思っていったのだけれど、どうやら違ったようだ。
「え……」
　和泉さんは、きっと、さっきの私に負けないぐらい、顔を赤くしていた。
　恥ずかしいのか、右手で顔を隠している。