〇洗面台 土曜日 朝
葵葉オフショルダーの花柄ワンピース姿。髪の毛を束ね鏡の前で確認中。
ガチャとドアが開き、シャツの前ボタンを止めながら春哉が入ってくる。
葵葉「シュンちゃんもう出掛けるの?」
葵葉の姿に目を丸める春哉。
春哉「うん」「今日も可愛いね」※筋肉がチラつく
ドキッとする葵葉。ありがとうと返す。
葵葉(・・・あれ?なんで、こんなにドキドキしてるんだろう)
入口で立ち止まっている春哉に気付きハッとする。
葵葉「ごめん。出るね」
春哉は立ったまま動かない。首をかしげる葵葉。
春哉「俺は?」「ちゃんと葵葉にかっこよく映ってる?」
春哉はドア枠にもたれながら聞く。葵葉チラつく上半身に目を泳がせながら小さく「うん」と頷く。
葵葉「それよりボッボタン!早く止めなよ」
目を合わせない葵葉を見る春哉
春哉「・・・俺、今日ボディガード休みだから」「たまには葵葉が俺のこと奉仕してよ」
葵葉の手を掴み自分の方へ寄せる。
春哉「止めて」※ニッと口角を上げる
葵葉「えっ!?」
葵葉(ほほっ奉仕!?) ※春哉を見上げ目を見開く(――あっ・・・このシュンちゃんの顔)
春哉は掴んだ手をボタンに近づける。葵葉の指先が震える。
葵葉(シュンちゃんがわがまま聞いて欲しい時の顔・・・)(きっと、言うこときくまで離してくれない)
ボタンを止めようと両手を春哉の前に持って行く。春哉の視線に鼓動が早まっていく。
春斗「シューン。そろそろ時間だぞ」とリビングから春斗の声。春哉「チッ……いい所だったのに」と舌打ちをする。
春哉「帰って来てから続きして」と玄関へ向かう。
ホッと肩を撫で下ろす葵葉。
鼓動を確かめるように胸に手を当てる。

〇リビング
春斗はテーブルで教科書とノートを見ている。葵葉がイヤリングをしながらリビングに入る。
葵葉「ハルちゃん、何してるの?」
春斗「こないだのテスト春哉より悪かったからな」「今度は勝てるように復習」
葵葉「あっそこ難しかったよね~」
春哉の手元を覗く。葵葉ふわっと香水の香りが漂う。
春斗「・・・香水変えた?」※葵葉を見上げる
葵葉「よくわかったね。『with you』のサンプルなんだけど、今日試しに付けてみたの」
葵葉(強いかな?)周りをクンクンと匂いを嗅ぐ
春斗「今日は百瀬と出かけるんだったよな」「ルイチェルとはちゃんと連絡取れてるか?」
葵葉「うっうん!もちろん!!」※苦笑い
春斗「・・・ならいいけど」
葵葉「ねぇねぇ、この香水の香りキツイ?」「匂いってイマイチわからなくて。ハルちゃんもたまにつけてるよね」
春斗「いや?別に・・・?」
立ち上がり周りの香りを確認しながら葵葉の首筋に顔を近づける。突然の至近距離にドキッとする葵葉。
春斗「俺は結構好きだけどな。この匂い」
葵葉「・・・そ、そっか。ありがと、・・・参考になります」
顔を赤くする葵葉に気付く春斗。
春斗(ん?少し、距離近すぎたか・・・)うなじに目が留まり、ゴクリと喉を鳴らす(いや、だからダメだろ。触りてぇけど)葵葉から距離を置く。
固まったままの葵葉。
葵葉(どうしちゃったんだろう。私、今日ちょっと変かも・・・。どうしてこんなに緊張してるの?)
――『葵葉は双子のどっちが好きなの?』朱里の言葉がよぎる。
葵葉(そういえば、2人は好きな人とかいるのかな・・・)春哉と美怜の姿を思い出す(いるよね・・・2人とも大学でも人気だもん)(・・・私といるのは仕事だから)
春斗は真剣な顔でジッと見てると、気づかれないようにポケットから発信機を出す。
春斗「ルイチェルがいるから安心だとは思うけど気をつけろよ」「イヤリングずれてるから、直してやるよ」
耳に手を伸ばす春斗※発信機を付けるため
葵葉「ひゃっ!」耳たぶに指先が触れる「ちょっ、ちょっと待っ」※耳まで赤くなる
春斗「えっ・・・?」「傾いてるから直そうと思って」
春斗(何だよ。後少しなんだから動くなよ――と言うか・・・)
葵葉「じ、自分でやるから大丈夫。・・・待っ、ハルちゃン!」
春斗「何?お前もしかして、耳弱いの?」※口元が緩む
指先で耳裏を形に添ってなぞる。
葵葉「ンッ!!」※ギュッと目を瞑る
抵抗するように春斗の腕を握る。
葵葉「やめて・・・」※涙目で春斗を見る
春斗(――あ、やばい)
赤らめる表情に手を止める。イヤリングの裏に追跡用の発信機を付ける。
葵葉「もう!ハルちゃんのいじわる!」※耳をふさぐ
春斗「ハハハ~悪い、悪い」
葵葉頬を膨らませ玄関へ走って行く。バンッとドアの音。
春斗「・・・」
春斗(やっべぇー・・・!!)※顔真赤にし口を抑えながら悶える
春斗(葵葉の奴・・・あんな顔しやがって。我慢してる身にもなれっての)
春斗「ったく・・・可愛すぎだろ」

〇水族館
館内は賑わっている。アーチ状の会場でイルカショーを見ている葵葉と孝太。
葵葉「わぁ!すごい!」
孝太「これはかなりの迫力だな」
イルカが水飛沫を観客席に飛ばして行くと歓声が沸く。
葵葉(本当に、2人に内緒で来ちゃったけど良かったかな。自分で計画しておいて罪悪感)
孝太「おっまた宙返りしてる。すごい!」
葵葉「可愛いですね。あっ!ほらまた飛んでる!」
葵葉(だめだめ!今はデート中なんだから!)
孝太の視線を感じ隣を見る。
葵葉「孝太さん?」
孝太「・・・僕、葵葉ちゃんのこと好きになってもいいかな」「歳の差もあるし、お金持ちの葵葉ちゃんとは、住む世界が違うって今まで抑えていたけど。僕は・・・」
イルカショーの水がバサァッと飛んできて濡れる孝太。

〇水族館 売店
売店で孝太を待っている葵葉。
売店の棚に並ぶ青と紫のイルカのマスコットに目が留まる。
葵葉「可愛い」イルカを手に取る
葵葉(ハルちゃんとシュンちゃんに似てる。お土産に買っていこうかな)
戻って来た孝が横から「どうしたの?ぬいぐるみ?」
葵葉「イルカショー見てたからか、可愛くてつい」
孝太「少し子供すぎない?」※息を吐く
葵葉「・・・そうですよね。ぬいぐるみなんて子供っぽいですよね」
葵葉(孝太さんは博学で大人だもの。私もこういうのは卒業しないと・・・)(2人も子供っぽいって思うかな・・・?)
名残惜し気にマスコットを棚に戻す。


〇撮影所
ヒキ。『Perfect Body Guard』の撮影スタジオ。カシャカシャとシャッター音。テンション高めのお姉系カメラマン。スーツ姿の春斗の撮影中。ガンホルダーに手袋をして拳銃を構えるポーズ。
カメラマン男「ん~いいね。いいね!ハル君視線こっちちょうだ~い!」
アシスタント(1)「春斗君かっこいいわね。前の雑誌も売行きよかったし、今回も期待できそう」
アシスタント(2)「九重さんの時も好調だったし明るい未来の兆しよー!」
アシスタント男(1)「次インタビュー入ります!」

〇春斗セットされた椅子に座る。女性アナウンサーが来てインタビューが始まる。
アナウンサー「まずはボディガードになったきっかけを教えてもらえますか?」
春斗「両親もこの業界にいたのが、きっかけで自然と目指すようになりました」
アナウンサー「ボディガードとして心掛けていることなどはありますか?」
春斗「心掛ける?」
アナウンサー「そう、例えば筋力トレーニングやメンタルの面で大切にしていることとかは?」
春斗「そうですね・・・」葵葉の絵「――護り抜くことかな」
アナウンサー「それは、クライアントを?」
春斗「クライアントももちろんですけど、その家族や環境も含めて」相槌を入れるアナウンサー「クライアントは常に制限をかけられた生活を送ってる人が多いです。だから少しでも、希望する生活を護れるように心掛けてますかね」
アナウンサー「時には自らを省みず任務を全うする。かっこいいですね」
春斗「あっそれは違いますよ」「自らを犠牲にするんじゃなくて、俺が護りたいと思うから護るんです」
アナウンサーがメモを取る手を止め春斗を見る。

〇マッスルフェス会場
ステージにいるボディビルダーに熱い掛け声が飛び交う。
美怜「あのぉ春哉先輩・・・これ本当に楽しいですか?」
春哉「おっ!」※目を見開きガッツポーズ「今の見たか!?」
美怜「え?あっはい!かっこよかったです!」「でも春哉先輩の方がもっとかっこ――」
観客「うぉおおお!!」歓声が上がり美怜の声がかき消される。
美怜(何なのこの連中はっ・・・)(いつも周りにいる人が邪魔すぎて、2人きりになれなかったから、今日こそ春哉先輩を落す絶好のチャンスなのに)(絶対絶対、手を繋いでチューしてやるんだから!!)