ー第8話ー

 「待って、颯真!!」

 澪は颯真の袖を掴んで引き止めた。

 「ん? どうした?」

 「……手当てしよ。救急箱、取ってくるから。ここで座ってて!」

 慌てて走り去る澪を見ながら、颯真は少し照れくさそうに頭をかいた。

 ──数分後。

 「はい、座って。」

 「おう、ありがとう。」

 澪は静かにガーゼを取り出し、颯真の頬の傷に消毒を当てる。
 でもその手は少し震えていた。

 「……なんで先輩と喧嘩なんてしたの。」

 「なぁ、澪。……ごめん。お前の過去を、聞いてしまった。」

 「っ……」
 ピタリと手が止まり、澪の瞳が揺れる。

 「俺は聞こうとしたんじゃない。あいつが一方的に言ったんだ。
 でもな……どんな過去があろうとも、俺はお前が好きだ。大好きだ。」

 「……っ、優しいこと言うな、バカ。」

 澪は俯いたまま、堪えていた涙をポロポロと零す。

 「……辛かったな。大丈夫だ。俺がいる。」

 颯真はそっと澪を抱き寄せ、背中をやさしくポンポンと叩いた。
 その温もりに、澪は声を詰まらせながら泣きじゃくる。

 「颯真っ……颯真ぁ……!」

 ──しばらくして、澪は涙を拭う。

 「……大丈夫、ありがとう。手、繋いで帰ろ?」

 「もちろんだ。」

 ──帰り道。

 「……なんで、あんたはそんなに私のことが好きなの。」

 「一目惚れだよ。最初に見たとき、ビビッときた。
 知れば知るほど、もっともっとお前を好きになる。」

 「……バカ。」

 「大好きだよ、澪。またあした。」