ー第7話ー

 「先輩、1回俺と勝負してください。」
 颯真の声は低く、真剣だった。

 「は?勝負?」
 楓雅が薄く笑う。

 「次の大会で、俺が個人戦で先輩に勝ったら…澪に近づかないでください。」

 「ははっ…面白いこと言うじゃん。俺にとって有利すぎるけどいいの?」
 「……舐めないでください。絶対勝ちます。」

 そう言い残し、颯真は黙ってその場を去った。

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 —帰り道—

 (絶対勝つ。澪を守るために、俺がやるしかない…)
 拳を握り締め、颯真は心の中で誓う。

 (澪、必ず助けるから…待ってろよ。)

 その日から、颯真の練習は異常なほどに熱を帯びた。
 指にタコができようが、腕が痛もうが関係ない。放課後は澪と帰らず、誰もいない弓道場で一人、黙々と弓を引き続けた。

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 —練習中、楓雅が現れる—

 「ねぇ…そんなに頑張って何が楽しいの?」
 楓雅が挑発的に笑う。
 「そんなに澪のこと好き?笑」

 「…そうですよ。俺は澪が大好きです。絶対に幸せにする。将来、俺が澪と結婚しますから。」

 「へぇ、馬鹿じゃないの?澪の過去、知らないだろ?」
 楓雅はわざとらしく肩をすくめる。
 「昔、澪に嘘コクして遊んでさ、やるだけやって捨てたんだよ。あいつ本気だと思ってたみたいでさ、笑えるよな。」

 颯真の表情が、一瞬で怒りに染まる。
 「……ふざけんな。」
 拳が震えた。
 「お前に澪の何がわかるんだよ……!!」

 「なんだよ、そんなキレんなって。事実を言っただけだろ?」

 次の瞬間、颯真は楓雅の胸ぐらを掴み、殴った。

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 —殴り合い—

 「お前…!!」
 楓雅も殴り返す。
 ドンッ、ドンッと鈍い音が響く。

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 —そこへ澪が来る—

 「颯真!? ちょっと何してんの!!」
 澪が駆け寄り、二人の間に割って入る。

 「やめて!!やめろってば!!」

 二人を引き剥がした澪の手は震えていた。
 「…怪我だらけじゃん…なに考えてんのよ…」

 颯真は血のにじむ拳を隠すように下げて、
 「ごめん…澪…」と小さく呟く。

 「謝るなら頭冷やして!もう今日は帰って!!事情は明日聞くから!!」
 澪は颯真を睨みつける。

 「先輩も、さっさと失せてください。気分が悪い。」

 「……っち。俺にそんな態度かよ。」
 楓雅は吐き捨てるように言い、去っていった。