ー第6話ー

 澪が弓を引く姿は、まるで別人だった。
 真剣な横顔、凛とした眼差し、張り詰めた空気——。

 颯真はその光景を見つめながら、思わず息を呑む。
 「やばい……本当に好きだ。」
 誰にも聞こえないほど小さな声で、ぽつりとこぼした。

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 ー部活が終わったあとー

 「……おい、澪。」

 背後から声をかけられ、澪の全身がビクリと震える。
 振り返らなくてもわかる——楓雅だ。

 「……っ」
 無視して歩こうとする澪の手首を、楓雅が強く掴む。

 「やめてっ!!」

 「やめてじゃないだろ、なあ?俺、お前の元彼だよな?」

 「私はそんな記憶ない!!離してって言ってるでしょ!!」

 「うるせぇ……!」
 楓雅は澪を乱暴に引き寄せる。

 「お前は俺から逃げられないの。わかる?」

 「……っ」
 (怖い……やめて……離して……)

 澪の手が震える。声も出ない。
 (誰か……助けて……)

 ⸻

 その時——。

 「澪っ!!!」
 鋭い声が響いた。

 颯真だ。
 勢いよく駆け寄り、楓雅の腕から澪を抱き寄せる。

 「何してんだよ先輩……!
 それが元彼のやることか?ただの脅迫じゃねーか。」

 「は?お前に言われる筋合いねぇだろ。転校生だかなんだか知らねーけど、あんまイキってんじゃねーよ。」

 「先輩こそ、澪を泣かせるな。
 ……澪、帰ろう。」

 颯真は澪の手をしっかり握り、背中をかばうように立つ。

 「先輩、次に澪に何かしたら——
 本気で許しませんから。」

 「……っち。」

 ⸻

 ー帰り道ー

 「澪、大丈夫か?」
 「……颯真、ありがとう。」
 「平気だ。……あの先輩とは——
 いや、やっぱり今は聞かない。澪は話したくないんだよな。」

 「……うん。」

 「一人で帰れるか?」
 「……帰れる。」

 「じゃ、またあした。」

 「……またあした。」
 澪はほんの少し、照れくさそうに小さく呟いた。