ー第5話ー

「澪、おはよう。」

「……おはよ。」

澪は目を合わせず、小さな声で返す。

隣のひよりがニヤニヤしながら言った。

「ねぇ、あんたたち、付き合いたてのカップルみたいじゃん?笑」

「ち、違うし!颯真とはカップルにならないから!」

「でも、俺はお前と絶対付き合うって決めてるから。」

「……うるさいっ!」

空気を変えたくてか、颯真が話題を変える。

「なあ、話変わるけど……俺、弓道部に入るわ。」

「は?! なんで私と同じ部活に入るのよ!? 私がいるからとかだったらやめて。
そんな軽い気持ちで弓道をやってほしくない。」

颯真は真っ直ぐな目で澪を見る。

「軽い気持ちじゃない。昨日、ずっと弓道のこと調べてたんだ。
真剣にやってみたいって思ったから、入る。」

「……はぁ。もう好きにしなさいよ。」



― 放課後 ―

「澪、一緒に部活行こうぜ。」

「……はいはい。」



弓道場に着くと、颯真がしっかりと頭を下げる。

「新しく弓道部に入りました。九条 颯真です。よろしくお願いします。」

すると、奥からひとりの男子が近づいてきた。

「おっ、転校初日に澪に告白したって噂のやつ、あんたか〜。」

軽口を叩くのは、蓮見 楓雅(はすみ ふうが)
澪の元カレで、弓道部のエース。どこか余裕を持った態度。

「噂の……イケメン先輩ですか?」

「え〜俺、そんな呼ばれ方してるの?照れるな〜笑」

颯真が一歩前に出る。

「……澪のこと、渡しませんから。」

「澪のことが好きなの?……やめた方がいいんじゃない?」

「……は?」

颯真の目が鋭くなる。

「ごめんごめん、キレないで?
だって俺、澪の“元カレ”だからさ。困ったら言ってよ?なんでも助けるよ。」

「先輩に頼らなくても、自分でなんとかしますから。」

澪の表情も強ばる。

「……先輩、私、もう“忘れてください”って言いましたよね?
そういうところ、本当に……直したほうがいいですよ?」

「え〜澪、怒っちゃった?ごめんごめん。」

そう言って、楓雅は澪の頭に手を伸ばして、撫でようとする。

——その時。

「先輩、澪に触らないでください。澪が“あんた”のせいで、汚れます。」

颯真の声は静かだけど、鋭く刺さるようだった。

「……は?なにイキってんの。調子に乗ってると、
部活にいられなくしちゃうよ?笑」

「やめてください、先輩。颯真は、私をかばってくれただけです……。」

楓雅は舌打ちして背を向ける。

「……チッ。もういい。帰るわ。」

その背中を見送ってから、颯真が言う。

「……ごめん、澪。つい、言いすぎたかも。」

「……別に、いい。ありがと。」

澪はそっと目を伏せると、頷いた。

「……部活、戻ろっか。」