ー第4話ー

「おーい、そこのカップル〜! これ、職員室に運んでくれー」

教室のドア越しに先生の声が響く。

「……は?誰がカップルよ!!」

澪は反射的に立ち上がって叫ぶ。

「俺はお前のことが好きだから、いずれカップルになるぞ?」

すかさず颯真が笑顔で返す。

「ならないって言ってんでしょ!!!」

「まぁまぁ。いいから頼んだぞー」と先生は飄々とその場を離れていく。

「……先生っ!」

澪が追いかけようとするけど、もう遅い。

「仕方ないなぁ〜、じゃあ行こっか、澪。」

「……はぁ、ほんとめんどくさい」

 

ふたりは、無言で荷物を持って歩き出した。

 

「……なんで私があんたとこんなことしないといけないのよ」

澪がぽつりと呟く。

「えー、いいじゃん、俺は嬉しいよ?こうやって澪と一緒にいるの」

「……良くないわよ。あんたが初日に告白してきたせいで、私、今や噂の標的なんだから」

「ん?噂なんて気にしなければいいじゃん」

「……あんたには、わかんないよ」

 

その一言に、颯真は少し黙った。

 

「……それって、ひよりが言ってた“過去”のこと?」

颯真が慎重に聞くと、

「……関係ないでしょ。あんたに言うつもりはない」

澪は、きっぱりと拒むように言い切った。

 

職員室に着き、ふたりは荷物を無言で置く。

一瞬、気まずい沈黙が流れた。

 

「……じゃあ、私、部活あるから行く」

澪がその場を離れようとした時——

 

「部活って、何部?」

「……弓道部よ。別に見に来ないでね」

「へぇ〜弓道部って……確か“イケメンの先輩”がいるって噂だったよな?」

 

その瞬間、澪の動きが止まる。

そして、顔を伏せたまま、小さく呟いた。

 

「……そいつの話、しないで」

 

颯真の顔から笑みが消える。

「……ごめん。気にしてたんだな。知らなかった」

「……もういい。じゃあね」

そう言って、澪は足早に廊下を歩いていった。

 

「……また明日な、澪」

そうつぶやいた颯真の声は、もう澪には届いていなかった。

——続く