真夜中のブラックkiss


「んー、アメリカのバンド」

「何て名前」

「ブラックコーヒー」

「え?」

私は思わず目を丸くする。


「ボーカルがブラックコーヒー好きらしくてさ。そのままバンドの名前にしたらしい」


涼弥は会社では決まってブラックコーヒーを飲んでいる。以前、得意先からロールケーキの差し入れがあったが涼弥は苦手だからと食べなかったから単に甘いものが苦手なのかと思っていた。

「へぇ。じゃあ涼弥がブラック好きなのもそのせい?」

「多分ね」

「多分って他にも理由あるの?」

「んー、なんか大人に見えるから、とか?」

「え、そんな理由もあったの」

「知らんけど」

「あのね」

ワザと睨んで見せれば涼弥がククッと笑う。

「でも好きなアーティストが影響とか、なんか意外」

できるだけ平坦な口調でそっけなく言いながら、どんな小さなことでも知らなかった涼弥のことを知ればやっぱり嬉しい。

「まぁ、どっちかと言うと歌の影響が一番かもな。このラブソングも好きだしな」

浮かれたのも束の間、ほんの少し照れたような顔の涼弥に胸がズキンとした。

いまちょうど流れているのは涼弥が車でよくかけている曲だ。

気にしたことはなかったが確かにラブソングと言われたらそうかもしれない。切ないバラードだから。