真夜中のブラックkiss

「別に……金曜の夜で暇だし? 祭理に何かあったら俺が困るし」

「え。何で、涼弥が困るの?」

「俺が行かなかったせいで何かあったら責任感じるだろ、普通に」

(ああ、そっちか。そうだよね)


一瞬でも私のことを心配してくれたのかと思ったが、そんなわけない。

社会人としての常識的な言動と同僚へのありふれた気遣い。この場に及んで、まだ小さな期待をしてしまった自分に今度こそ呆れて物が言えない。

「毎回言ってるけどさ」

「うん」

「別に飲んでもいいけど、こんなになるまで飲むな。いい?」

「はい……努力します」

「次から罰金な」

「えーっ」

「静かにしろ。酔っ払い」

さっきまでの微妙な空気が飛んでいって、いつもと変わらない会話のやり取りができていることにほっとする。

(どこで間違えたのかな)

新入社員の飲み会でたまたま隣になったのが涼弥だった。趣味の映画の話から意気投合して、住んでいるアパートがたまたま近所だったこと、さらに同じ部署の配属だったこともありすぐに気の置けない仲になった。

始めは本当にただの同期でただの男友達。それ以上でもそれ以下でもなかった。

そこから私だけが形を変えてしまった。