真夜中のブラックkiss

「車まで歩ける? ロータリーに停めてるから」

「頑張る」

頑張るならもっと他に頑張ることあるだろと自分で自分に突っ込みたくなる衝動を抑えながら、涼弥に支えられて改札の外へ出る。

改札を出ればロータリーの端っこにハザードランプが点灯している車が見えた。涼弥はすぐにロックを解除すると助手席の扉を開けて私を乗せる。

「シートベルト閉めろよ」

「うん」

涼弥はシートベルトを閉めると、すぐにハンドルを握る。

車の中は洋楽が静かに流れていて、彼の着ているTシャツとスウェットから優しい柔軟剤の匂いが鼻を掠める。そしてよく見れば、涼弥の髪はセットされておらず毛先が濡れている。

「涼弥、もしかしてシャワー浴びてた?」

「残業して飯食って、風呂入って出た瞬間、祭理からLINE」

「言ってくれたら別にタクシーで帰ったのに」 

そう言葉にしてから、しまったと思う。
先にごめんねを言うべきだった。

まさに『後の祭り』という言葉がピッタリ。名は体を表すと言うがあながち間違ってないないな、なんてつまんないことを考えていたら涼弥が小さくため息を吐き出すのが聞こえた。

そのため息が私の心にチクリと棘を刺す。


「……ごめん」

もう遅いと思いながらも謝罪の三文字を付け加える。そして何とも言えない雰囲気に思わず俯いた。