真夜中のブラックkiss

「ねぇ、私、酔ってる?」

「なんで?」

「だって……なんか信じられなくて、夢かもって」

「夢でたまるかよ。てか、祭理は俺のことどう思ってるわけ?」

「え? お、同なじ気持ちだけど」


大好きだと言えれば良かったけれど、やっぱり可愛くない返事をしてしまう。だって今は気が抜けてほっとして、形を変えようとしているこの関係がくすぐったくてたまらないから。

「ズルくね?」

「い、いいじゃない。私の方が片想い長いんだからっ」

「俺もまあまあ長いけど?」

「な……っ」

さらりと言われた言葉に頬が紅潮する。

「顔真っ赤」

「酔ってますので」

「ふうん。じゃあ確かめよっか」


何をどうやってと聞く前に、涼弥が私の頬にそっと触れる。大きくてあったかい手のひらが心地いい。

「何味かわかったら酔ってないってことで」

「なにそれ、よくわかんないんだけど」

涼弥が何をしようとしてるのか予想はつくのに、恋愛偏差値の低い私は憎まれ口を叩かずにはいられない。

「んー、一回黙って」

「……はい」

「何で敬語?」

「もう、わかんないよっ」

私の返事に涼弥が屈託のない笑顔を見せる。

こじらせた恋の物語がこんな展開を迎えるなんて大どんでん返しもいいとこだ。

そして涼弥の顔が私の気持ちを確かめるようにゆっくり近づいてくる。


──ふわりと落とされたキスは、ちゃんと大人のブラックコーヒーの味がした。





2025.7.22 遊野煌

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