真夜中のブラックkiss

「ここ一年くらい? 俺と飲んでてもなんか上の空の時あるしさ」

(それは涼弥に見惚れてただけ)

「前みたいに大きな口開けて笑ったりしないし」

(そんなの好きな人の前で恥ずかしいじゃん)

「一人で飲みに行ったと思えば、酔い潰れて終電逃したって連絡くるしさ」

(だって告白するには酔わなきゃ無理だから)

「どんな悩みだよ。心配だろ、普通に」

「心配……してくれてたんだ?」

「当たり前じゃん……同期なんだから」

(あ……)

当然のように返ってきた返事に私は肩にかけているブランケットを握りしめた。

心配してくれたことが嬉しい。
でも一線をあらためて引かれたことがすごく悲しい。

「涼弥にとって私は同期……だもんね。それ以上でもそれ以下でもない」

つい口をついて出た言葉は可愛さのカケラもなく棘だらけだ。

「祭理?」

「涼弥にはわかんないよっ」

「何急に。言ってくれなきゃわかるも何もないけど」

涼弥の言う通りだ。言葉にしないと何ひとつ相手には伝わらない。でも喉の奥に言葉が引っかかって出てこない。まだ怖い。

「ちゃんと聞くから」

涼弥の宥めるような声に私は少し迷ってから、叱られた子供みたいに首を縦に振った。もうここまできたら引き返せない。

「……私、ずっとね……」」

声が掠れて震える。あれほどアルコールでフワフワしていた脳内は透き通っていて、心臓の音が涼弥に聞こえてるんじゃないかと思うほどにうるさく跳ねている。

(ここまできたら言わなきゃ……)

今、この瞬間に言わないとおそらく一生、この想いを抱えたまま大人にならないといけない。
拗らせたこの恋を終わらせることができない。

「私──」

「ごめん、待って」

涼弥が私の言葉を遮ると大きく深呼吸するのが見えた。もしかしたら私の言おうとしていることを感じ取ったのかもしれない。震えた指先を悟られないように私は両手をぐっと重ねた。

「先に俺が言うわ」

「え……?」

「ずっと祭理のこと同期として見てた。同期としての関係が居心地が良かったから」 

見たことがない真剣な表情の涼弥に見つめられて、どうしたらいいのかわからない。

一つだけわかるのは続きを聞くのが怖くてたまらない。

迷惑だと、その想いはいらないと拒絶されるのがどうしようもなく怖い。