真夜中のブラックkiss

「……覚えてて、くれたの?」

自分でもすっかり忘れていたが、確かに去年の誕生日あたりに酔いの勢いに任せて、そんなことを言ったような気もしてくる。

「まぁな。お誕生日おめでとう」

「あ、ありがとう……」

「俺で悪いけど」

肩をすくめてそう付け足すと涼弥が夜景に視線を向ける。

(そんなことない)

誕生日に夜景を見れるなら涼弥とがいいに決まってる。

何も貰えないと思っていた冴えない誕生日はほんのり淡く色がついて、目の前に広がる夜景の光のように燻んだ心の中に明かりが灯る。


「連れてきてくれてありがと。すごく……嬉しい」

私は精一杯、自分の気持ちを言葉にする。

「なら良かった」

涼弥は缶コーヒーを傾けながら、長い脚を組む。

「俺さ。高いとこ好きでさ」

「そうなの?」

「なんか高いとこから景色見てるとさ、悩んでることがちっぽけに思えんだよな」 

「涼弥、悩み事があるの?」

「まぁ……。祭理は?」 

「私は……」

それこそずっと悩んでいる。
涼弥のことで。

でもどこからどう話せばうまく伝えられるのか、この関係を変えることなく恋を終わらせることができるのかわからない私は唇をきゅっと結んだ。

「──聞くけど」

顔を横に向ければ、涼弥の切長の目と目があって鼓動がひとつ跳ねる。