真夜中のブラックkiss

「もう着くよ」

いつの間にか車は高速をおりていて、見知らぬ街の住宅街を抜けて山道を登っていくと、小さな展望台に辿り着いた。眼下に広がる、宝石箱をひっくり返したような七色の輝きを目にして私は思わず息を呑む。

「涼弥、ここ……」

「降りて見よっか」

涼弥は私の返事を待たずに車を停めると、シートベルトを、外して外に出る。私もすぐに車外に出れば、涼弥が後部座席からブランケットを取り出した。


「ほら、冷えるから」

「あ、うん……」

気のせいだろうか。いつもと少し雰囲気の違う涼弥に鼓動が早くなる。

そして彼はベンチのところまで歩くとすぐそばの自販機を指差した。

「何か飲む?」 

「ううん、大丈夫」 

「じゃあ先座ってて」

「わかった」

私は先にベンチに腰を下ろすがソワソワして落ち着かない。

涼弥はどうして展望台に来たかったんだろう。それにどうしてこんな、恋人同士で過ごす様なところに私を連れてきたんだろう。

いくら考えを巡らせても納得のいく答えは勿論出ない。

涼弥は缶コーヒーを手に戻ってくると私の隣に座った。

プルタブを開ける音と鼻を掠めていくブラックコーヒーの匂いが夜風と共に身体をすり抜けていく。

「……綺麗だね」

沈黙が嫌で先にありきたりの言葉を口にしたのは私だった。

「ずっと前、飲み行ったとき言ってたじゃん。誕生日は夜景見たいって」

「え?」

思ってもみない涼弥の言葉に私は両目を見開く。