真夜中のブラックkiss

「……なんか、大人って難しいなって」

どうせ大人になりきれないなら、いっそ大人を辞めてしまいたい。

「別にいつか大人って呼ばれるものになってたら良くね?」

「今は大人じゃなくていいってこと?」

「まー、社会人だし仕事はちゃんとやるけど、それと大人かどうかって別な気がするな。俺は」

「もっと……大人になりたい」

報われない一つの恋にいつまでもしがみつかないように。それなのに──。

「なんでこんななんだろ……」

「…………」

ポツリと吐き出した言葉に涼弥は少しの間、黙っていた。いつもならこんなネガティブなこと思っていても口には出さない。

でももう涼弥を夜中に呼び出すのは今夜で最後と決めた途端に、ひたすら隠し続けている心の端っこを言葉にせずにはいられなかった。

「祭理は……そのまんまでいいんじゃない」

(よくないよ)

(だって涼弥に迷惑かけてばっかりじゃん)


本当はそう言いたかったけど、目の奥が熱くなりそうで私は黙って頷くしかなかった。