真夜中のブラックkiss

「これ、歌詞何て言ってるの?」

私は五教科の中で一番苦手なのが英語だ。残念ながら、涼弥が好きだと言う曲の歌詞は全くもって聞き取れない。


「さぁ」

「何、恥ずかしいの?」

「……言葉にするってムズいだろ」

さっきよりも私のコンプレックスの小さな胸はもっと痛む。涼弥は誰を想って誰に重ねてこの曲を聞いてるんだろう。

私が口を開くより先に、まるで追求を逃れる様に彼が話の矛先を変えた。 

「てか、祭理もブラックじゃん」

「まあ、ね」


ややぎこちなく答えてしまったのは、私は本当はブラックコーヒーが苦手だから。

それでも社内でブラックを飲み続けているのは涼弥と新商品やおすすめのコーヒーの話がしたいから。あとは単純に好きな人の好きなものを共有したいという子供じみた発想からだ。

「コーヒーをブラックで飲むって大人だと思ってたけど違うよね。普通に苦いし」

「どした? 急に」 

「わかんないけど」

私の恋とよく似てる。

真夜中に酔った勢いで呼び出す勇気はあるくせに、そこから先には踏み込めない。苦さを味わうのが怖くて大人になりきれない。