伝えたい想いは歌声と共に

 それからユウくんは、私の持っているベースを見る。
「それにしても、まさか藍が音楽を始めているとは思わなかったよ。それも、俺の使ってたベースでなんて」
 ユウくんのベースをもらったこと、私が軽音部に入ろうとしていることは、ここに来るまでの間に話してあった。
「ごめんね。勝手に貰っちゃって」
「そんなことないって。むしろ、藍がもらってくれて嬉しいよ」
 本当に、嬉しそうに笑うユウくん。私はまだそんなにうまくないけどやる気ならあるし、ユウくんの前だと、なおさら張り切っていこうって思えてくる。
「私も、ユウくんみたいにたくさん練習するからね」
「ああ。頑張れ」
 応援しながら、ユウくんはそっと、私の頭の上に手を伸ばす。
 頭を撫でてくれようとしているんだ。
 私はユウくんに頭を撫でられるのが大好きで、ユウくんもそれを知ってた。
 だけど、ユウくんの手は私の頭に触れることなく、スッと突き抜けていく。
 幽霊になったユウくんは物に触ることができないから、こうなるのは当たり前だった。
「やっぱりダメか。藍なら俺を見ることができたし、もしかしたら触れるかもしれないって思ったけど、無理みたいだな。なら、これならどうだ?」
 ユウくんの手が、私の頭に触れるか触れないかくらいの場所で、一度止まる。それからゆっくり、手のひらを前後に動かした。
(わわっ!)
 確かにこれだと、私の頭を撫でてるように見えるかも。
 もちろん、実際に触ることはできないから、手の感触は伝わってこない。それに私ももう中学生で、頭を撫でられて喜ぶような歳じゃない。それでも、ユウくんが私を喜ばせたくてやってくれてるのはわかって、嬉しい気持ちが溢れてくる。
「あ、ありがとう」
 またユウくんに撫でてもらえるなんて、夢みたい。
 そんな中、不意に、部室の入口の方から、ガチャリという音が響いた。
「えっ──?」
 見ると、部室の扉が開き、一人の男子生徒が入ってきた。三島だ。
「悪い。遅れ、た……」
 声をかけてくる三島。
 だけど、急にその言葉が途切れ、びっくりするくらい大きく目を見開く。
「三島……?」
 どうしたの? 不思議に思うけど、そこで気づく。
 今の私、ユウくんに頭撫でられてるんだよね。いきなりこんなの見たら、驚くかも。
 って言うか、これを人に見られるのって、かなり恥ずかしい。
「み、三島、これはね……」
 えっと、何をどこから説明したらいいかな?
 どうして頭を撫でられてるか? それとも、ユウくんが幽霊だってことから言った方がいい?
 だけど、そこで私は、またおかしなことに気づく。
 幽霊になったユウくんは、私以外の人には見えない。そう思ってた。
 だけど三島の視線は、間違いなくユウくんに向けられていた。
 三島も、ユウくんのこと見えるの!?
 そんな疑問に答えるように、三島は叫ぶ。
「なんでそいつがここにいるんだよーーーーっ!」
 三島の声が、校舎の一角に響いた。