伝えたい想いは歌声と共に

 場所は、再び軽音部部室。
 幽霊のなったユウくんと再会した後、揃ってここにやって来た。
 元々は入部届けを出すため職員室に行こうとしていたんだけど、今はそれよりもっと話がしたかった。
「本当に、ユウくんなんだよね。目の前にいるのに、まだ信じられないよ」
「俺も驚いてるよ。さっきも言ったけど、やっぱりこれって、幽霊ってやつなのかな?」
「多分……」
 何しろ、彼は四年も前に亡くなった身。なのにこうしてここにいるんだから、それしか考えられない。
 それに、幽霊ならではの特徴なら、他にもあった。 
 じつはこの部室に来る途中、他の部活の人たちとすれ違ったの。
 その人たちは、邪魔にならないよう、私を避けながら歩いていたけど、すぐ近くにいたユウくんは、誰も避けようとしなかった。
 そして、その中の一人がユウくんとぶつかったその時、その人の体や持っていた荷物は、ユウくんの体をすり抜けて、何事もなかったように歩いていった。
「どうやら俺は、藍以外の人間には姿が見えないらしいし、人や物に触ることもできないみたいだな」
 ユウくんはそう言って近くの机に手を置くけど、その手は机をすり抜けていく。
「ねえユウくん。ユウくんは、幽霊のまま何年もここにいたの?」
 亡くなってすぐに幽霊になったなら、そういうことになる。
 けどそれにしては、幽霊のことを知らなさすぎる気がした。
 するとユウくんは、予想通り首を横にふる。
「違うよ。俺が幽霊になったのは、ついさっきだと思う」
「えっ!?」
 何年も幽霊をやっているようには見えなかったけど、それにしたって、ついさっき?
「藍と会ったあの階段。そこから落ちたのは覚えてるけど、俺の意識はそこで一度途切れたんだ。でもその時、自分はこれで死んだんだってのはわかった」
 淡々と語る。そんな言葉がピッタリだった。
 ユウくんは、嘆くわけでも悔しがるわけでもなく、自分が死んだ時の状況を、静かに話してくれた。
「それで、次に気がついた時には、階段の上に立っていた。まさか、その間に四年も経っているとは思わなかったけどな」
「そうなんだ……」
 こんな時、なんて言ったらいいんだろう。
 励ます? 慰める?
 どんな言葉をかければいいのかなんて、全然わかんない。そうして、やっと言えたのがこれだった。
「辛く……なかった?」
 わざわざこんなの聞くなんて、無神経だったかも。
 だけどユウくんは、少しも気を悪くした様子はなかった。
「どうだろう。寂しい気持ちが全く無いわけじゃないけど、落ち込んだりはしなかったな。ああ、そうなんだって感じ。けどな……」
 そこで初めて、ユウくんの表情が変わった。
 それは、死の瞬間を語った時よりも、ずっとずっと真剣に見えた。
「そんな風に思っていると、目の前に一人の女の子がいたんだ。とても苦しそうにしていたから、何とかしなきゃって思って、声をかけた」
「それって……」
「藍のことだよ」
 そこまで言ったところで、イタズラっぽく笑う。
「もしかすると、藍が俺をここに呼んでくれたのかもしれないな」
「えっ?」
 ニコッと笑いながらそんな事を言われると、何だか妙に恥ずかしい。
「私、色々変わったでしょ」
「ああ。可愛いだけじゃなく、綺麗になった。だから、最初藍だってわからなかった」
「ふぇっ⁉」
 き、綺麗!?
 その言葉を聞いた瞬間、カッと顔が熱くなる。
 なのにユウくんは、私の動揺なんて知りもしないで、さらに言う。
「けどこうして話してみて、やっぱり藍なんだなって思った。こんなに綺麗になっても、藍は藍だ」
「────っ!」
 ま、また、綺麗って言った! すごくあっさり言った!
 う、ううん。ここは、一回落ち着こう。
 ユウくんは、昔から私のことを何度も可愛いって言ってくれた。
 けどそれは、妹みたいに思っているからであって、恋愛的な意味は全然ない。
 今の綺麗だって、きっとそれと同じだよね。
 そう思っても、やっぱり好きな人に綺麗って言われた威力はすごくて、顔は火照ったままだった。