伝えたい想いは歌声と共に

 話してる途中って、そんなの気を使わなくてもいいのに。それより、お前と一緒に行きたいっての。
 教室を去っていく藤崎を見ながらため息をつくと、北野にそっと肩を叩かれた。
「残念だったね」
「な、何がだよ!」
 思わず声を荒らげるけど、北野はニヤニヤと笑いながら、生暖かい視線を向けてくる。
「隠してもムダだって。藍がベースを始めたと聞けばギターを始める。一緒に部室に行けなかっただけで落ち込む。わかり易すぎでしょ。藍への片思い、長いよね」
「うわぁぁぁぁぁっ! お前、いきなり何言い出すんだよ!」
 いきなり叫んだせいで、教室にいた他の奴らがどうしたんだって感じでこっちを見てくるけど、気にする余裕なんてない。
「あんたが藍を好きってこと、みんな知ってるよ。昔、好きな子いじめやってたことも含めてね」
「くっ……」
 やめろ。黒歴史を掘り起こすな。
 小学生の頃、藤崎にやったイジワルの数々を思い出すと、死にたくなる。
「まあ、藍は気づいてないけどね。あの子、自分の恋愛に関してはとことん鈍いのよね」
「気づかなくていい。知ってもどうせ困らせるだけだ」
 卑屈なことを言うけど、実際その通りだと思う。
 有馬優斗。何年も前に亡くなった、藤崎の近所に住んでたやつのことを思い出す。
 藤崎の初恋の相手。それに多分、藤崎は今でもあいつのことが好きだ。
 そんなの、見てりゃだいたいわかる。
 けど北野は、小学校の高学年になってから転校してきたから、そんなこと知らずに、お構いなしに言ってくる。
「けどさ、軽音部って、あんたたち二人しかいないかもしれないんだよね。それって、仲良くなれるチャンスなんじゃないの?」
「なっ──!」
 それは、俺だって考えなかったわけじゃない。
 って言うか、実はめちゃめちゃ期待してる。
「同じ部活……二人きり……」
 よし。俺もさっさと部室に行こう。
 そこで藤崎と今よりもっと仲良くなれたら。そんな期待を抱きながら、ギュッと手を握りしめた。