箒で地面を掃いていると、 ジリジリとした太陽の光が容赦なく照り付けてくる。
季節はもうすっかり夏になっていた。
刈り取っていた草を全部集めて、ゴミ袋に入れる。
梅雨の間にたっぷりと水を吸ってだいぶ伸びていたけど、これでようやくすっきりした。
ひと仕事を終えて見つめる先にあるのは、お墓。
ここは、私の家の近所にある、お寺の中の墓地。そして、目の前にあるこのお墓は、ユウくんのものだった。
「終わったか?」
いつの間にか、三島がそばに寄ってきて言う。
このお寺は三島の家でもあって、さっきまで使っていた掃除用具も、彼が貸してくれたものだ。
「ありがとう。おかげで綺麗になった」
三島や家族の人たちも墓地の掃除はしているんだけど、ユウくんの家族は、誰もここにやってこない。
だから、放っておくと他のお墓と比べて、どうしても汚れが目立ってしまう。
今みたいな梅雨明けの時期だと、特にそう。
この時期にユウくんのお墓を掃除するのは、私にとって毎年恒例のことになっていた。
「先輩、今頃どうしているのかな」
三島がポツリと言う。亡くなった相手を差してこんなこと言うなんて、普通はおかしなこと。けど私たちにとっては、そうじゃない。
「今でも、夢みたい。ユウくんと、また会えたなんて」
結局あのままユウくんは消えてしまって、二度と現れることはなかった。
元々幽霊ということもあって、彼が再びこの世にいたって痕跡は、なにひとつ残ってない。
って言うのは、ちょっとだけ違うかな。
「夢じゃねえよ。お前、何があったか全部覚えてるだろ」
「うん。そうだね」
そう。ユウくんが幽霊になって現れたのは、ほんの数日。だけどその間に起きた全部がかけがえのないものだった。
再び会えたこと、抱えていた苦しさを知ったこと、好きって気持ちを伝えられたこと。どれも、しっかりと記憶に焼き付いている。
「なあ、藤崎。先輩の事、まだ好きか?」
「えっ…………」
急に三島がそんなこと言うものだから、面を食らってしまった。
どうしてそんなこと聞くんだろう。戸惑うけど、面白半分に聞いているようには見えなった。
「好きだよ。そりゃ、ユウ君はもういないし、いつまでも引きずってちゃいけないから、どこかでけじめはつけるべきだと思う。でも、今はまだユウくんのことが好き」
これが、いいことなのかは分からない。本当は、とっくに気持ちを切り替えなければいけないのかもしれない。
だけどもうしばらくは、この気持ちを大事にしたかった。
すると三島は、フッと、力の抜けるようなため息をつきながら言う。
「いいんじゃねえの。無理やりどうにかしようって思ってできる事じゃねえしな」
「そ、そうなのかな?」
「お前、先輩が初恋の相手なんだろ。先輩だって、多分そう。その気持ちを大事にするのが、悪いわけないだろ」
三島の言葉で、少し気持ちが楽になる。私に気遣ってくれているのが伝わってきて、嬉しかった。
それと、これを聞いて、気になることがひとつあった。
「三島も、初恋の人っているの?」
さっきの三島の言葉、なんだかすごく実感がこもってた気がするんだよね。
もしかしたら三島にも、大切な初恋の相手ってのがいるのかな。
「さあな。いたとしても、今のお前には教えねえよ。今はまだ、な」
「えぇっ、なにそれ!?」
気になるけど、三島はそっぽを向いて、とても答えてくれそうにない。三島とは長い付き合いだけど、たまによくわからないことを言うんだよね。
「それより、そろそろ部活行くぞ。遅れたら、大沢さんたちを待たせることになるだろ」
「あっ……」
そうだった。
今日は休日だけど、大沢さんが昔の軽音部の先輩たちを連れてきて、色々教えてもらうことになってたんだ。
「急がないと!」
慌てて掃除用具を片付け、ユウくんのお墓を後にする。
けどその前に、最後に一度だけ振り返り、心の中で呟く。
(ユウくん。私は今、ユウくんのベースを使って練習中だよ。たくさんがんばって、いつかユウくんみたいにうまくなるからね)
もちろん、その呟きに返事なんてあるはずがない。
だけどその時、急に風が吹いて、私の体を包む。
私にはそれが、ユウくんが見守ってくれている合図のような気がした。
季節はもうすっかり夏になっていた。
刈り取っていた草を全部集めて、ゴミ袋に入れる。
梅雨の間にたっぷりと水を吸ってだいぶ伸びていたけど、これでようやくすっきりした。
ひと仕事を終えて見つめる先にあるのは、お墓。
ここは、私の家の近所にある、お寺の中の墓地。そして、目の前にあるこのお墓は、ユウくんのものだった。
「終わったか?」
いつの間にか、三島がそばに寄ってきて言う。
このお寺は三島の家でもあって、さっきまで使っていた掃除用具も、彼が貸してくれたものだ。
「ありがとう。おかげで綺麗になった」
三島や家族の人たちも墓地の掃除はしているんだけど、ユウくんの家族は、誰もここにやってこない。
だから、放っておくと他のお墓と比べて、どうしても汚れが目立ってしまう。
今みたいな梅雨明けの時期だと、特にそう。
この時期にユウくんのお墓を掃除するのは、私にとって毎年恒例のことになっていた。
「先輩、今頃どうしているのかな」
三島がポツリと言う。亡くなった相手を差してこんなこと言うなんて、普通はおかしなこと。けど私たちにとっては、そうじゃない。
「今でも、夢みたい。ユウくんと、また会えたなんて」
結局あのままユウくんは消えてしまって、二度と現れることはなかった。
元々幽霊ということもあって、彼が再びこの世にいたって痕跡は、なにひとつ残ってない。
って言うのは、ちょっとだけ違うかな。
「夢じゃねえよ。お前、何があったか全部覚えてるだろ」
「うん。そうだね」
そう。ユウくんが幽霊になって現れたのは、ほんの数日。だけどその間に起きた全部がかけがえのないものだった。
再び会えたこと、抱えていた苦しさを知ったこと、好きって気持ちを伝えられたこと。どれも、しっかりと記憶に焼き付いている。
「なあ、藤崎。先輩の事、まだ好きか?」
「えっ…………」
急に三島がそんなこと言うものだから、面を食らってしまった。
どうしてそんなこと聞くんだろう。戸惑うけど、面白半分に聞いているようには見えなった。
「好きだよ。そりゃ、ユウ君はもういないし、いつまでも引きずってちゃいけないから、どこかでけじめはつけるべきだと思う。でも、今はまだユウくんのことが好き」
これが、いいことなのかは分からない。本当は、とっくに気持ちを切り替えなければいけないのかもしれない。
だけどもうしばらくは、この気持ちを大事にしたかった。
すると三島は、フッと、力の抜けるようなため息をつきながら言う。
「いいんじゃねえの。無理やりどうにかしようって思ってできる事じゃねえしな」
「そ、そうなのかな?」
「お前、先輩が初恋の相手なんだろ。先輩だって、多分そう。その気持ちを大事にするのが、悪いわけないだろ」
三島の言葉で、少し気持ちが楽になる。私に気遣ってくれているのが伝わってきて、嬉しかった。
それと、これを聞いて、気になることがひとつあった。
「三島も、初恋の人っているの?」
さっきの三島の言葉、なんだかすごく実感がこもってた気がするんだよね。
もしかしたら三島にも、大切な初恋の相手ってのがいるのかな。
「さあな。いたとしても、今のお前には教えねえよ。今はまだ、な」
「えぇっ、なにそれ!?」
気になるけど、三島はそっぽを向いて、とても答えてくれそうにない。三島とは長い付き合いだけど、たまによくわからないことを言うんだよね。
「それより、そろそろ部活行くぞ。遅れたら、大沢さんたちを待たせることになるだろ」
「あっ……」
そうだった。
今日は休日だけど、大沢さんが昔の軽音部の先輩たちを連れてきて、色々教えてもらうことになってたんだ。
「急がないと!」
慌てて掃除用具を片付け、ユウくんのお墓を後にする。
けどその前に、最後に一度だけ振り返り、心の中で呟く。
(ユウくん。私は今、ユウくんのベースを使って練習中だよ。たくさんがんばって、いつかユウくんみたいにうまくなるからね)
もちろん、その呟きに返事なんてあるはずがない。
だけどその時、急に風が吹いて、私の体を包む。
私にはそれが、ユウくんが見守ってくれている合図のような気がした。


