それは、時間にすればほんの少し。
その短い間に、私は必死になって自分の心と向き合う。そして、一番伝えたい想いを見つけ、言う。
「私、ユウくんのことが好き」
小さい頃から、ずっと抱いていた想い。ユウくんが亡くなって、永遠に言うことは無いと思っていた言葉を伝える。
「ありがとう。俺も好きだよ、藍のこと」
ユウくんは、嬉しそうに微笑んで応える。
けどユウくんの思っている好きは、私の言う好きとは違うよね。
恋愛じゃなく、妹としての好き。昨日、私の部屋で咄嗟に好きって言ってしまった時も、ユウくんはそう勘違いしていた。
その時は、それでよかったと思った。ユウくんが誰とも付き合う気がないなら、この想いは実らない。それなら、伝わらない方がいいって。
けど今は、これが本当に最後なら、やっぱり伝えたかった。
「ち、違うの。私の好きは、恋としての好き。妹じゃなくて、一人の女の子として見て欲しい。ユウくんのこと、一人の男の子として、大好だから!」
自分でもびっくりするくらい、声が震えていた。足がガクガクと震えて、崩れ落ちそうになる。それでも、念を押すように一言続ける。
「本気、だから……」
いきなりこんなこと言われるなんて、ユウくんは思ってもみなかったよね。
困らせてしまったらどうしよう。そんな不安が湧いてきて、ますます震えが強くなる。
それでも、視線は決してユウくんから逸らすことなく、じっと返事を待つ。
ユウくんは、やっぱり凄く驚いたんだろう。大きく目を見開いて、今まで見たことがないような表情で、少しの間固まっていた。
それから、なぜか急に顔を伏せ、表情を隠すように手を当てて覆った。
「ど、どうしたの?」
やっぱり、困ってしまったのかな。一瞬そう思ったけど、私が声をあげたのを見て、ユウくんは顔を覆っていた手を外す。
そうして見せた顔は真っ赤に染まっていて、なんだかとても恥ずかしそう。
そして、凄く、凄く嬉しそうだった。
「知らなかった。誰かに好きになってもらえるのって、こんなにも嬉しいことなんだな」
満面の笑みで、そう告げられる。
それを聞いて、私の頬も、同じように赤くなっていくのがわかった。
「藍のこと、妹みたいに思ってた。けど、部室で二人で話した時も言ったよな。今の藍は、凄く頼りになって、心強くて、俺が守っていたあの頃とは違うかもって。その時点でもう、妹とも違う特別な存在になっていたのかもしれない。だからかな。そんな風に好きって言ってもらえて、凄くドキドキしてる」
「それって……」
「これが、恋ってやつなのかな。多分、俺も好きなんだと思う。藍のことを、一人の女の子として」
その瞬間、目から涙が零れる。
悲しいからじゃない。永遠に伝えられることがないと思っていた、初恋の気持ち。それを伝えられたどころか、最高の答えが返ってきた。その嬉しさが溢れ出した。
ただ、そんな幸せな時間は、長くは続かない。
ユウくんの体はますます透明になっていって、向こう側の景色がはっきりと見えるくらいになっていた。
「消えるのが惜しいな」
ユウくんが、ポツリと言う
それは、一度だって成仏するのを嫌がらなかったユウくんにとって、初めての言葉だった。
「私も、もっとユウくんと一緒にいたかった。こんなの思うの、間違ってるかもしれないけど」
成仏するのは、この世に心残りがなくなるのはいいことのはずなのに、どうしたってそう思ってしまう。
すると、さっきから一歩引いて私たちを見守っていた三島が、すかさず言う。
「何も間違っちゃいねえよ。大事な奴と別れるんだ、嫌なのは当たり前だ」
幽霊でいるのは良くないこと。
そう言い続けてきた三島も、決して私たちを責めようとはしなかった。
「せっかく会えたのに、すぐに寂しい思いをさせてごめんな。けど、ありがとう。俺のために悲しんでくれて」
ユウくんはそう言うと、クシャリと顔を歪ませた私に向かって、ゆっくり手を伸ばす。それから、頭をなでるような仕草をしてくれた。
ポンポンって、私の心をとかすみたいに、何度も何度もなでてくれた。
「わ……私は、大丈夫だから」
本当は、泣きじゃくりながら、成仏しないでって叫びたい。
けどそんなことしたら、ユウくんを困らせちゃう。ユウくんとの最後の思い出が、そんなのになってしまうのは嫌だった。
だから、泣きそうになるのを堪えて、笑う。
「ユウくんに、また会えて嬉しかった。好きって言えて、好きって言ってもらえて、嬉しかった。ユウくんのこと、ずっとずっと大好きだから!」
それを聞いて、ユウくんも笑顔になる。
ほんの少し切なげで、だけど、精一杯の笑顔に。
「最後に、恋することを教えてくれてありがとう。俺も、藍のことが大好きだ!」
その言葉を言い終わった途端、まるで幻のようにユウくんの体が消える。
最初から何も無かったように、なにひとつ残さず、消えてしまった。
だけど最後に見せた笑顔は、私の目に焼き付いていた。
その短い間に、私は必死になって自分の心と向き合う。そして、一番伝えたい想いを見つけ、言う。
「私、ユウくんのことが好き」
小さい頃から、ずっと抱いていた想い。ユウくんが亡くなって、永遠に言うことは無いと思っていた言葉を伝える。
「ありがとう。俺も好きだよ、藍のこと」
ユウくんは、嬉しそうに微笑んで応える。
けどユウくんの思っている好きは、私の言う好きとは違うよね。
恋愛じゃなく、妹としての好き。昨日、私の部屋で咄嗟に好きって言ってしまった時も、ユウくんはそう勘違いしていた。
その時は、それでよかったと思った。ユウくんが誰とも付き合う気がないなら、この想いは実らない。それなら、伝わらない方がいいって。
けど今は、これが本当に最後なら、やっぱり伝えたかった。
「ち、違うの。私の好きは、恋としての好き。妹じゃなくて、一人の女の子として見て欲しい。ユウくんのこと、一人の男の子として、大好だから!」
自分でもびっくりするくらい、声が震えていた。足がガクガクと震えて、崩れ落ちそうになる。それでも、念を押すように一言続ける。
「本気、だから……」
いきなりこんなこと言われるなんて、ユウくんは思ってもみなかったよね。
困らせてしまったらどうしよう。そんな不安が湧いてきて、ますます震えが強くなる。
それでも、視線は決してユウくんから逸らすことなく、じっと返事を待つ。
ユウくんは、やっぱり凄く驚いたんだろう。大きく目を見開いて、今まで見たことがないような表情で、少しの間固まっていた。
それから、なぜか急に顔を伏せ、表情を隠すように手を当てて覆った。
「ど、どうしたの?」
やっぱり、困ってしまったのかな。一瞬そう思ったけど、私が声をあげたのを見て、ユウくんは顔を覆っていた手を外す。
そうして見せた顔は真っ赤に染まっていて、なんだかとても恥ずかしそう。
そして、凄く、凄く嬉しそうだった。
「知らなかった。誰かに好きになってもらえるのって、こんなにも嬉しいことなんだな」
満面の笑みで、そう告げられる。
それを聞いて、私の頬も、同じように赤くなっていくのがわかった。
「藍のこと、妹みたいに思ってた。けど、部室で二人で話した時も言ったよな。今の藍は、凄く頼りになって、心強くて、俺が守っていたあの頃とは違うかもって。その時点でもう、妹とも違う特別な存在になっていたのかもしれない。だからかな。そんな風に好きって言ってもらえて、凄くドキドキしてる」
「それって……」
「これが、恋ってやつなのかな。多分、俺も好きなんだと思う。藍のことを、一人の女の子として」
その瞬間、目から涙が零れる。
悲しいからじゃない。永遠に伝えられることがないと思っていた、初恋の気持ち。それを伝えられたどころか、最高の答えが返ってきた。その嬉しさが溢れ出した。
ただ、そんな幸せな時間は、長くは続かない。
ユウくんの体はますます透明になっていって、向こう側の景色がはっきりと見えるくらいになっていた。
「消えるのが惜しいな」
ユウくんが、ポツリと言う
それは、一度だって成仏するのを嫌がらなかったユウくんにとって、初めての言葉だった。
「私も、もっとユウくんと一緒にいたかった。こんなの思うの、間違ってるかもしれないけど」
成仏するのは、この世に心残りがなくなるのはいいことのはずなのに、どうしたってそう思ってしまう。
すると、さっきから一歩引いて私たちを見守っていた三島が、すかさず言う。
「何も間違っちゃいねえよ。大事な奴と別れるんだ、嫌なのは当たり前だ」
幽霊でいるのは良くないこと。
そう言い続けてきた三島も、決して私たちを責めようとはしなかった。
「せっかく会えたのに、すぐに寂しい思いをさせてごめんな。けど、ありがとう。俺のために悲しんでくれて」
ユウくんはそう言うと、クシャリと顔を歪ませた私に向かって、ゆっくり手を伸ばす。それから、頭をなでるような仕草をしてくれた。
ポンポンって、私の心をとかすみたいに、何度も何度もなでてくれた。
「わ……私は、大丈夫だから」
本当は、泣きじゃくりながら、成仏しないでって叫びたい。
けどそんなことしたら、ユウくんを困らせちゃう。ユウくんとの最後の思い出が、そんなのになってしまうのは嫌だった。
だから、泣きそうになるのを堪えて、笑う。
「ユウくんに、また会えて嬉しかった。好きって言えて、好きって言ってもらえて、嬉しかった。ユウくんのこと、ずっとずっと大好きだから!」
それを聞いて、ユウくんも笑顔になる。
ほんの少し切なげで、だけど、精一杯の笑顔に。
「最後に、恋することを教えてくれてありがとう。俺も、藍のことが大好きだ!」
その言葉を言い終わった途端、まるで幻のようにユウくんの体が消える。
最初から何も無かったように、なにひとつ残さず、消えてしまった。
だけど最後に見せた笑顔は、私の目に焼き付いていた。


