伝えたい想いは歌声と共に

 ユウくんが私に取り憑けるか。
 そんな実験を始めたのは、今から少し前。
 ユウくんの話を全部聞き終わった後、ようやく落ち着いた時だった。
「そう言えば、私が階段から落ちかけた時、ユウくんが私に取り憑いたんだよね?」
「ああ。そうとしか考えられないな」
 ユウくんの話にすっかり夢中になって忘れかけていたけど、今思い出しても不思議。
「体が勝手に動くような感じになってたけど、あれってユウくんが私の体を動かしてたんだよね?」
「ああ。まるで、俺が藍になったみたいだった」
 ビックリだけど、幽霊が出てくるお話だと、取り憑いて体の自由を奪われるってのは結構あるから、なんとなく受け入れることはできた。
「勝手なことしてごめんな。嫌じゃなかったか?」
「ううん。あの時取り憑いてくれなかったらケガしてたかもしれないし、むしろ感謝してるよ」
 幽霊に取り憑かれるっていうと怖いイメージがあるけど、そのおかげで助かったんだから、嫌なわけがない。
 そこまで話したところで、ふと、ある考えが浮かんできた。
「ねえ。取り憑くのって、ユウくんが私の中に入ったら、いつでもできるのかな?」
「うーん、どうだろう?」
 首を傾げるユウくん。
 たった一回偶然起きただけなんだから、わかんないよね。
 けどそれなら、もう一回やってみたらわかるよね。
「ねえ、実験してみない?」
 この、不思議な現象に興味を持った私は、そう提案してみた。

 ◆◇◆◇◆◇

 …………って話を、三島に聞かせたんだけど、そこまで聞いたところで、突然口を挟んできた。
「いや、ちょっと待て。じゃあさっきのは、取り憑けるかどうかって実験のせいなんだな」
 なんだか納得いってないって感じで、頭を抱えている。
「なんでわざわざそんな実験しようと思った? わざわざ自分から幽霊に取り憑かれるなんてありえねえだろ!」
 そうかな?
 自由に取り憑くことができるなら、便利なことだってあると思うんだけど。
「だって取り憑いている間は、ユウくんも私の体で物に触ったりできるんだよ。それなら、例えば飯だって食べられるようになるかなって」
「そんな理由かよ!」
 理由を話しても、三島はますます納得できないって感じで怒鳴る。
 けど、けっこう大事なことだと思うんだけどな。
「だって私がごはん食べてる時だって、ユウくんはずっとそばで見てるだけなんだよ。そんなの寂しいじゃない」
 幽霊になったユウくんはご飯を食べることはできないし、私の入れたコーヒーだって飲めなかった。
 飲んだり食べたりすることができないって、すごく残念なことなんじゃないの?
「有馬先輩も、そう思っているのか?」
「いや。俺は別に、そこまで気にしてはしないんだけどな」
 そうなんだよね。
 今言ったご飯の話も取り憑く実験も、ほとんど私が言い出したことで、ユウくんはそれにつきあってくれてるって感じ。
 できることが増えるってのは、いいことだと思うんだけどな。
「つまり、このわけのわからない実験は、全部藤崎が言い出したことなんだな」
 三島はそう言うと、深〜いため息をついた。