伝えたい想いは歌声と共に

「それからは、藍も知っての通り。抱えている不安が消えていってるのは感じたけど、それでもやっぱり、母親が戻って来た時は平静じゃいられなかった。そして、俺はそのまま死んじゃった」
 死。
 今更ながら、その言葉を聞くとどうしても身構えてしまう。
 だけどユウくんは、そこには一切の悲壮感を見せることなく、話を続けた。
「だからさ、やっぱり藍には、こんなの知られたくなかったんだ。いつだって、良い兄貴でいたかったから」
「ユウくんは、いいお兄ちゃんだもん」
 驚いたし、ショックもあった。
 けど話を聞く前も聞いた後も、ユウくんは私の理想のお兄ちゃんで、一番大好きな人だった。
「いいお兄ちゃんでいられたのは、藍のおかげだよ。藍がいたから、少しずつ変わっていけたんだと思う。軽音部に入って仲間を作ることができたのだって、そんな変化の中のひとつだった」
 大沢さんを見た時、ユウくんが嬉しそうにしていたのを思い出す。
 ユウくんにとって、軽音部は本当に大切な場所だったんだろうな。
 ユウくんにそんな場所ができたこと。それに、私が関わっていることが、すごく嬉しかった。
「本当にありがとう。こんなので、納得してくれるか分からない。だけど……って、藍!」
 そこまで言ったところで、ユウくんは慌てて言葉を止める。
 そして私は、ボロボロと大粒の涙を流して泣いていた。
「藍! 藍、大丈夫?」
 心配そうに、何度も声をかけてくるユウくん。
 けど違うの。
 私が泣いてるのは、決して悲しいからじゃない。
「……あ、ありがとう」
「えっ?」
 ユウくんは、どうしてお礼を言われたのかまるでわかってないみたい。
 けど私は、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「家族みたいだって思ってくれて、ありがとう」
「……藍」
 ユウくんは、私がいるから変わっていけたって言ってたけど、私だって、ユウくんのおかげでたくさんの楽しいをもらってきた。
 そんなユウくんに、こんなにも大事に思われているのが、すごく嬉しかった。
 泣きじゃくる私に向かって、ユウくんはそっと手を伸ばす。
「ごめんな、こんなに泣かせて。酷いアニキだな」
「いいの。これは嬉し泣きだから」
 たくさんの涙を流しながら、それでも私は笑った。