小さい頃の、ユウくんとの記憶。
それを思い出していた私は、フーッと大きく息をつく。
あれから四年。私は、中学一年生になっていた。
といっても、まだ入ったばかりで、今日が初めての授業だったんだけどね。
それも終わって、今は放課後。場所は教室だ。
こんな時にユウくんのことを思い出したのは、この中学が当時ユウくんの通っていた学校だったからかもしれない。
あの頃の私には、中学生なんてすごく大人に見えたけど、今はこうして入学している。
あと一年もすれば、ユウくんとだって同い年だ。
そんなユウくんが亡くなった日のことは、今でもよく覚えてる。
公園で遊んでたら、お母さんが青い顔してやってきて、言ったんだ。
ユウくんが、学校の階段から落ちて亡くなったって。
「────っ!」
思い出したとたん、急に胸が苦しくなる。
あの時の感じた悲しみも、ユウくんへの恋心も、ちっとも色あせてないような気がした。
そんなことを考えていると、急に誰かから名前を呼ばれた。
「藍……藍ってば」
「あっ、真由子」
顔を向けると、そこには友だちの北野真由子が立っていた。
「どうしたの? 何だかボーっとしてたよ」
「えっ。そう?」
さっきからユウくんのことばかり考えてたから、傍から見るとボーっとして見えたのかも。
「ごめん。それで、なんだっけ?」
「部活動見学、藍はどうするの? 私は色々見て回ろうと思うんだけど、藍も一緒に行く?」
今の時期、ほとんどの部活では、新入生に向けた紹介をやっていて、真由子みたいに見て回る人も多かった。
けれど、私は首を横に振る。
「やめとく。入る部活はもう決めてあるから」
真由子も、私がそう言うのは予想していたみたいで、「そっか」とあっさり頷いた。
「それって、前から言ってたやつだよね」
「そう、軽音部」
そう言って、教室の後ろにある自分のロッカーに目をやる。そこにあるのは、黒く塗られた楽器ケース。その中に入っているのは、真っ白なベースだ。
それは、ユウくんが昔使っていたベースだった。
どうしてそれを今私が持っているのか。それにはこんな事情があった。
四年前、ユウくんのお葬式が終わったところで、ユウくんのお父さんが言ったの。
息子の私物を、欲しい人がいたらもらってやってほしいって。その方が息子も喜ぶだろうって。
そうして並べられた、ユウくんの持ち物。その中で私の目を引いたのが、このベースだった。
私はベースなんて弾けないけど、ユウくんが毎日これを弾いて、たくさん練習したのは知ってたから、一番印象に残ってた。
ベースをじっと見つめる私を見て、ユウくんのお父さんは、あっさりとくれるって言ってくれた。
一緒にいた私のお父さんとお母さんは、申し訳なさそうにしてたけど、私はもうベースを掴んで離さなかった。
そういうわけで、ユウくんが愛用していたベースは、私のものになったの。
「う〜ん。今思うとかなり迷惑なことしてたかも」
ベースなんて安いものじゃないのに、しかも弾けもしないのに、あんなにほしがったなんて。
それから長い間、このベースは弾くことなく私の部屋に飾ってたけど、それが変わったのは去年のことだ。
「藍が音楽やろうと思ったきっかけって、去年ここの文化祭のステージを見たからだっけ」
「うん。見てたら、私もやりたくなっちゃった」
ユウくんが亡くなってからは、この学校の文化祭に来ることも無くなっていた。
だけど去年は、来年からここに来ることもあって、真由子と二人で久しぶりに来てみたんだ。
その時たまたま入った体育館のステージで、当時の軽音部員が演奏しているのを見たの。
それで、思ったんだ。もしユウくんが生きていたら、あれからも、あのベースでたくさんの曲を弾いていただろうな。
なのに私は、ただ眺めてるだけ。それが、何だかとても申し訳なく思えた。
文化祭から戻って、本やネットで弾き方を調べていくうちに、本格的に音楽をやってみたくなったの。
「けど、大丈夫なの? ここの軽音部ってあんまり人がいないって聞いたけど」
真由子が心配そうに言う。実は、事前にこの学校の軽音部のことを調べてみたんだけど、その通りなの。
「たしか去年の時点で、三年生が二人だったみたい」
「三年ってことは、その人達ってもう卒業してるよね。それって、今は部員ゼロってことじゃない。しかも、藍だってまだほとんど初心者でしょ」
「そうなんだよね……」
心配なのは、私だってそう。
ベースの練習を始めてからまだ半年くらいしかたっていないし、人前で演奏したことだって無い。
ただね。部員の数でいえば、ちょっとだけ明るい話もあるの。
「部員なら、私以外にも入ってくれそうな人はいるから」
そう言って、教室の一角に目をやる。真由子も一緒にそっちを向くと、その先にいた人を見て、ああって声をあげる。
「そういえば、アイツも最近楽器始めたって言ってたっけ」
「うん。ギターだよ。たまにだけど、一緒に練習したこともあるんだ」
私たちの視線の先にいたのは、一人の男子生徒。三島啓太だ。
彼も、中学生になってこの学校に入学していたの。
それを思い出していた私は、フーッと大きく息をつく。
あれから四年。私は、中学一年生になっていた。
といっても、まだ入ったばかりで、今日が初めての授業だったんだけどね。
それも終わって、今は放課後。場所は教室だ。
こんな時にユウくんのことを思い出したのは、この中学が当時ユウくんの通っていた学校だったからかもしれない。
あの頃の私には、中学生なんてすごく大人に見えたけど、今はこうして入学している。
あと一年もすれば、ユウくんとだって同い年だ。
そんなユウくんが亡くなった日のことは、今でもよく覚えてる。
公園で遊んでたら、お母さんが青い顔してやってきて、言ったんだ。
ユウくんが、学校の階段から落ちて亡くなったって。
「────っ!」
思い出したとたん、急に胸が苦しくなる。
あの時の感じた悲しみも、ユウくんへの恋心も、ちっとも色あせてないような気がした。
そんなことを考えていると、急に誰かから名前を呼ばれた。
「藍……藍ってば」
「あっ、真由子」
顔を向けると、そこには友だちの北野真由子が立っていた。
「どうしたの? 何だかボーっとしてたよ」
「えっ。そう?」
さっきからユウくんのことばかり考えてたから、傍から見るとボーっとして見えたのかも。
「ごめん。それで、なんだっけ?」
「部活動見学、藍はどうするの? 私は色々見て回ろうと思うんだけど、藍も一緒に行く?」
今の時期、ほとんどの部活では、新入生に向けた紹介をやっていて、真由子みたいに見て回る人も多かった。
けれど、私は首を横に振る。
「やめとく。入る部活はもう決めてあるから」
真由子も、私がそう言うのは予想していたみたいで、「そっか」とあっさり頷いた。
「それって、前から言ってたやつだよね」
「そう、軽音部」
そう言って、教室の後ろにある自分のロッカーに目をやる。そこにあるのは、黒く塗られた楽器ケース。その中に入っているのは、真っ白なベースだ。
それは、ユウくんが昔使っていたベースだった。
どうしてそれを今私が持っているのか。それにはこんな事情があった。
四年前、ユウくんのお葬式が終わったところで、ユウくんのお父さんが言ったの。
息子の私物を、欲しい人がいたらもらってやってほしいって。その方が息子も喜ぶだろうって。
そうして並べられた、ユウくんの持ち物。その中で私の目を引いたのが、このベースだった。
私はベースなんて弾けないけど、ユウくんが毎日これを弾いて、たくさん練習したのは知ってたから、一番印象に残ってた。
ベースをじっと見つめる私を見て、ユウくんのお父さんは、あっさりとくれるって言ってくれた。
一緒にいた私のお父さんとお母さんは、申し訳なさそうにしてたけど、私はもうベースを掴んで離さなかった。
そういうわけで、ユウくんが愛用していたベースは、私のものになったの。
「う〜ん。今思うとかなり迷惑なことしてたかも」
ベースなんて安いものじゃないのに、しかも弾けもしないのに、あんなにほしがったなんて。
それから長い間、このベースは弾くことなく私の部屋に飾ってたけど、それが変わったのは去年のことだ。
「藍が音楽やろうと思ったきっかけって、去年ここの文化祭のステージを見たからだっけ」
「うん。見てたら、私もやりたくなっちゃった」
ユウくんが亡くなってからは、この学校の文化祭に来ることも無くなっていた。
だけど去年は、来年からここに来ることもあって、真由子と二人で久しぶりに来てみたんだ。
その時たまたま入った体育館のステージで、当時の軽音部員が演奏しているのを見たの。
それで、思ったんだ。もしユウくんが生きていたら、あれからも、あのベースでたくさんの曲を弾いていただろうな。
なのに私は、ただ眺めてるだけ。それが、何だかとても申し訳なく思えた。
文化祭から戻って、本やネットで弾き方を調べていくうちに、本格的に音楽をやってみたくなったの。
「けど、大丈夫なの? ここの軽音部ってあんまり人がいないって聞いたけど」
真由子が心配そうに言う。実は、事前にこの学校の軽音部のことを調べてみたんだけど、その通りなの。
「たしか去年の時点で、三年生が二人だったみたい」
「三年ってことは、その人達ってもう卒業してるよね。それって、今は部員ゼロってことじゃない。しかも、藍だってまだほとんど初心者でしょ」
「そうなんだよね……」
心配なのは、私だってそう。
ベースの練習を始めてからまだ半年くらいしかたっていないし、人前で演奏したことだって無い。
ただね。部員の数でいえば、ちょっとだけ明るい話もあるの。
「部員なら、私以外にも入ってくれそうな人はいるから」
そう言って、教室の一角に目をやる。真由子も一緒にそっちを向くと、その先にいた人を見て、ああって声をあげる。
「そういえば、アイツも最近楽器始めたって言ってたっけ」
「うん。ギターだよ。たまにだけど、一緒に練習したこともあるんだ」
私たちの視線の先にいたのは、一人の男子生徒。三島啓太だ。
彼も、中学生になってこの学校に入学していたの。


