その日の夜。私は自分の部屋で宿題をやっていた。
けど頭の中は、別のことでいっぱいだった。
(ユウくん、告白は全部断ったって言ってたけど、どうしてだろう? 私としてはホッとしたけど。もしかして、誰か他に好きな人がいて、だからみんな断ったんじゃ……)
大沢さんから話を聞いて以来ずっと気になっていたけど、今のところ、ユウくんには何も聞いてない。
聞くのは怖い気もするし、そもそも聞いていい話かどうかもわからないよ。
なんて思ってた時だった。
「どこかわからない所でもあるのか?」
「ひゃあ!」
突然、そのユウくんから声をかけられたものだから、思わず声をあげる。
ユウくん。宿題の邪魔にならないよう、押入れの中に引っ込んでいたはずなのに!
「ごめん、脅かした? ずいぶん唸ってたから、よほど苦手な問題があったのかなって思って」
「私、そんなに唸ってた?」
「ああ。押し入れの中でも聞こえるくらい」
そうなの!?
そんなことになってたなんて、全然自覚なかった。
「しゅっ、宿題なら、もうほとんど終わってるから!」
唸っていたのを聞かれたのが恥ずかしくて、つい本当のことを言う。
そして、すぐにしまったって思う。
それを聞いたユウくんは、首を傾げていた。
「宿題じゃないなら、何をそんなに悩んでたんだ。よっぽど気になることがあったみたいだけど?」
「そ、それは……」
そりゃ、こんな風に聞かれるよね。
どうしよう。デリケートな問題かもしれないし、言わない方がいいかな。
けれど、それじゃあなんて言うべきか考えても、いい案なんて浮かばなかった。
「えっと……学校で聞いた大沢さんの話で、気になることがあって。ユウくん、告白されたのに、どうして誰とも付き合わなかったの?」
迷った末に、本当のことを話す。
ううん。なんて言うべきか浮かばなかったってのはただの言い訳で、結局のところ、ただ知りたいだけなのかもしれない。
「す、少し気になっただけだから、話したくないなら無理に話さないで」
慌てて、そうつけ加える。
実に中途半端だけど、この期に及んでまだ、私の中では聞きたい気持ちとやめておこうって気持ちが戦っていた。
「別に話してもいいよ。そんなに大した話じゃないし。特にその子達とは付き合いたいって思えなかった。それだけだから」
私の葛藤は何だったのかって思うくらい、ユウくんは実にあっさりと答える。
けどそうなると、私の中のもっと知りたいって欲も大きくなった。
だから、もう少しだけ、聞いてみる。
「でも、告白されたのって一度じゃないんだよね。一人も、付き合いたいって思わなかったの?」
「ああ。相手がどんな人かじゃなくて、俺自身の問題かな。そういう風に思ってくれたのは嬉しかったけど、俺には誰かと恋愛する気なんてなかったんだ」
ユウくんは、特に感情を見せること無く、淡々と話してる。
だけどそれを聞いて、私はなぜか不安になった。
誰かと恋愛する気はない。その言葉に、酷く胸がザワザワする。
これ以上聞いちゃダメ。頭の中でそんな警鐘が鳴る。
けど、遅かった。ユウくんの顔に、初めて表情が浮かぶ。
そして、言う。
「もし付き合ったとしても、いつまで続くかわからない。いつかは別れるかもしれない。そんな風に考えるんだ」
少しだけ、ほんの少しだけ、寂しそうにするユウくん。
それはただ、恋愛に無関心なだけのようにも聞こえる。
だけど私は、それを聞いた瞬間、嫌な汗が流れた。
もし付き合ったとしても、いつかは別れるかもしれない。
多分だけど、ユウくんがどうしてそんな風に思うようになったか、その理由に心当たりがあったから。
(これ、聞いちゃダメなやつだった)
やっぱり、軽々しく聞くんじゃなかった。
今になって、自分のした事を後悔する。
「何だか、藍相手にこんな話をするのは、変な感じだな……藍?」
気がつけば、私は小さく俯いていた。
それを見て、ユウくんは不思議そうに声をかける。
「……ごめんなさい」
「なにが?」
「急に、変なこと聞いちゃって……」
「何だ、そんなこと? 別にいいよ、これくらい」
本当にいいの? 私は、そうは思わない。
だってユウくんは、さっきからずっと、寂しげな表情が消えていない。
「俺こそ、つまらない話でごめんな。告白されたのに、別れる時のことを考えるなんて、変だろ。もしかしたら、俺は人より冷めたいのかもな」
ユウくんは、笑いながら冗談っぽく言う。
けれど、その瞳は微かに揺れていた。笑っているはずなのに、ちっとも楽しそうには見えなかった。
そんなユウくんを見て、胸の奥がズキリと傷む。そして、気がつくと叫んでた。
「そんなこと無い! ユウくんは、冷たくなんかない」
突然叫んだ私を見て、ユウくんは目を丸くする。
私だって、こんなこと言うなんて思ってもいなかった。
それでも、自分のことを冷たいと言ったユウくんを、否定したかった。
「ねえ、私でもだめ?」
どうしてだろう。気がつくと、さらにそんなことを言っていた。
今のユウくんを見ていると、ユウくんの抱えていたものを思うと、いても立ってもいられなくなって、勝手に言葉が出てきた。
「私がユウくんのことを好きって言っても、ダメ?」
けど頭の中は、別のことでいっぱいだった。
(ユウくん、告白は全部断ったって言ってたけど、どうしてだろう? 私としてはホッとしたけど。もしかして、誰か他に好きな人がいて、だからみんな断ったんじゃ……)
大沢さんから話を聞いて以来ずっと気になっていたけど、今のところ、ユウくんには何も聞いてない。
聞くのは怖い気もするし、そもそも聞いていい話かどうかもわからないよ。
なんて思ってた時だった。
「どこかわからない所でもあるのか?」
「ひゃあ!」
突然、そのユウくんから声をかけられたものだから、思わず声をあげる。
ユウくん。宿題の邪魔にならないよう、押入れの中に引っ込んでいたはずなのに!
「ごめん、脅かした? ずいぶん唸ってたから、よほど苦手な問題があったのかなって思って」
「私、そんなに唸ってた?」
「ああ。押し入れの中でも聞こえるくらい」
そうなの!?
そんなことになってたなんて、全然自覚なかった。
「しゅっ、宿題なら、もうほとんど終わってるから!」
唸っていたのを聞かれたのが恥ずかしくて、つい本当のことを言う。
そして、すぐにしまったって思う。
それを聞いたユウくんは、首を傾げていた。
「宿題じゃないなら、何をそんなに悩んでたんだ。よっぽど気になることがあったみたいだけど?」
「そ、それは……」
そりゃ、こんな風に聞かれるよね。
どうしよう。デリケートな問題かもしれないし、言わない方がいいかな。
けれど、それじゃあなんて言うべきか考えても、いい案なんて浮かばなかった。
「えっと……学校で聞いた大沢さんの話で、気になることがあって。ユウくん、告白されたのに、どうして誰とも付き合わなかったの?」
迷った末に、本当のことを話す。
ううん。なんて言うべきか浮かばなかったってのはただの言い訳で、結局のところ、ただ知りたいだけなのかもしれない。
「す、少し気になっただけだから、話したくないなら無理に話さないで」
慌てて、そうつけ加える。
実に中途半端だけど、この期に及んでまだ、私の中では聞きたい気持ちとやめておこうって気持ちが戦っていた。
「別に話してもいいよ。そんなに大した話じゃないし。特にその子達とは付き合いたいって思えなかった。それだけだから」
私の葛藤は何だったのかって思うくらい、ユウくんは実にあっさりと答える。
けどそうなると、私の中のもっと知りたいって欲も大きくなった。
だから、もう少しだけ、聞いてみる。
「でも、告白されたのって一度じゃないんだよね。一人も、付き合いたいって思わなかったの?」
「ああ。相手がどんな人かじゃなくて、俺自身の問題かな。そういう風に思ってくれたのは嬉しかったけど、俺には誰かと恋愛する気なんてなかったんだ」
ユウくんは、特に感情を見せること無く、淡々と話してる。
だけどそれを聞いて、私はなぜか不安になった。
誰かと恋愛する気はない。その言葉に、酷く胸がザワザワする。
これ以上聞いちゃダメ。頭の中でそんな警鐘が鳴る。
けど、遅かった。ユウくんの顔に、初めて表情が浮かぶ。
そして、言う。
「もし付き合ったとしても、いつまで続くかわからない。いつかは別れるかもしれない。そんな風に考えるんだ」
少しだけ、ほんの少しだけ、寂しそうにするユウくん。
それはただ、恋愛に無関心なだけのようにも聞こえる。
だけど私は、それを聞いた瞬間、嫌な汗が流れた。
もし付き合ったとしても、いつかは別れるかもしれない。
多分だけど、ユウくんがどうしてそんな風に思うようになったか、その理由に心当たりがあったから。
(これ、聞いちゃダメなやつだった)
やっぱり、軽々しく聞くんじゃなかった。
今になって、自分のした事を後悔する。
「何だか、藍相手にこんな話をするのは、変な感じだな……藍?」
気がつけば、私は小さく俯いていた。
それを見て、ユウくんは不思議そうに声をかける。
「……ごめんなさい」
「なにが?」
「急に、変なこと聞いちゃって……」
「何だ、そんなこと? 別にいいよ、これくらい」
本当にいいの? 私は、そうは思わない。
だってユウくんは、さっきからずっと、寂しげな表情が消えていない。
「俺こそ、つまらない話でごめんな。告白されたのに、別れる時のことを考えるなんて、変だろ。もしかしたら、俺は人より冷めたいのかもな」
ユウくんは、笑いながら冗談っぽく言う。
けれど、その瞳は微かに揺れていた。笑っているはずなのに、ちっとも楽しそうには見えなかった。
そんなユウくんを見て、胸の奥がズキリと傷む。そして、気がつくと叫んでた。
「そんなこと無い! ユウくんは、冷たくなんかない」
突然叫んだ私を見て、ユウくんは目を丸くする。
私だって、こんなこと言うなんて思ってもいなかった。
それでも、自分のことを冷たいと言ったユウくんを、否定したかった。
「ねえ、私でもだめ?」
どうしてだろう。気がつくと、さらにそんなことを言っていた。
今のユウくんを見ていると、ユウくんの抱えていたものを思うと、いても立ってもいられなくなって、勝手に言葉が出てきた。
「私がユウくんのことを好きって言っても、ダメ?」


