伝えたい想いは歌声と共に

(ユウくんがうちに来る。うちに泊まる……)
 あれから三島と別れてうちまで帰ってきたけど、その間私は、ずーっと緊張しっぱなし。
 それは、ユウくんにも伝わったみたい。
「本当に、急にやってきてよかったのか?」
「も、もちろんだよ。遠慮しないで」
 ここで断ったら、ユウくんの行くところがなくなっちゃう。それに緊張はするけど、嫌ってわけじゃない。
 だってユウくんと一緒にいられるんだもん。むしろ嬉しくもあるんだから。
 そんなことを考えながら玄関の戸を開けると、お母さんが出迎えてくれた。
 この時間だと喫茶店をやってるお店の部分にいることが多いけど、今はたまたま暇だったみたい。
「お帰りなさい。部活どうだった?」
 私が軽音部に入ろうとしているのは、お母さんにも話してある。
 だけどまさか、そこで幽霊になったユウくんと再会したなんて、夢にも思ってないよね。
「色々あって、ちゃんと始めるのは明日からになった」
 それからちょっとだけ喋った後、お店の方に行ってしまった。
「おばさんも、俺のこと見えていないみたいだな」
「うん。三島の言ってた通り、やっぱりほとんどの人には見ないんだね」
 実はユウくんはずっと私の隣にいたんだけど、お母さんはちっとも気づかなかった。
「とりあえず、中に入ろうか」
「あっ。その前に、一度おじさんの顔見てくるよ。見えなくても、挨拶くらいはしておきたいから」
 ユウくんはそう言って、お店に向かう。
 それじゃ、私はその間おもてなしの準備をしないと。
 台所に行って、コーヒーを入れる。
 これでも喫茶店の娘だからコーヒーには詳しいし、ユウくんがどんなのを好きかは今でも覚えてる。
 そうしていたら、ユウくんがお店から戻ってきた。
「今、コーヒーの準備してるから、ちょっと待っててね」
「えっ? でも……」
「いいから、ユウくんは座ってて」
 昔はこういうのはお父さんやお母さんにやってもらってたけど、今は私だってできるってところを見せたかった。
 そうしてできあがったコーヒーを持っていくけど、ユウくんは困った顔をしてた。
「ごめん。俺、物に触れないから、飲んだり食べたりするのも無理みたい」
「あ……」
 ユウくんの伸ばした手は、カップを掴むことはできずに突き抜けている。
「ごめんな、せっかく用意してくれたのに」
「わ、私こそごめん」
 こんなの、気づかなかった私が悪い。ちょっと考えたら、すぐにわかったのに。
「でも飲むことはできなくても、匂いならわかるか」
「えっ?」
「コーヒーは、味だけでなく香りを楽しむものだからな」
 ユウくんはそう言うと、そっとカップに顔を近づけて、ゆっくり息を吸う。
「うん、いい匂いだ。藍、ありがとな」
「う、ううん。こっちこそ、ありがとう」
「ん? なんで藍がお礼を言うの?」
「な、なんとなく」
 コーヒーを飲むことはできなかったけど、少しは喜んでくれたかな。
 そう思うと、なんだか嬉しかった。
 それから私は一度自分の部屋に入って、部屋着に着替える。
 普段は部屋着なんて適当に選ぶけど、今日は、一番可愛く見えるのはどれだろうって迷う。
「これ? それとも、こっちの方がいいかな?」
 そうして着たのは、白のニットに、ピンクのショートパンツ。本当はもっと考えていたかったけど、これ以上ユウくんを待たせるわけにはいかない。
 結局、そのままの格好でユウくんのところに行く。
 けど、特に見てってアピールするわけでもないし、ユウくんはなんとも思わないよね。
「お、お待たせ」
「ああ、着替えたんだ。その服、とってもよく似合ってるよ」
 はうっ!
 い、いきなり褒められた!
 やっぱりユウくん、サラッとそういうこと言うよね。
 その一言で、どれだけドキッとしてるかも知らないで。
 けど恥ずかしがってる場合じゃない。やることは、まだまだたくさんあるんだから。
「そ、そうだ。今夜ユウくんが寝るための布団、用意しないと」
 使ってない布団があったはずだから、お父さんとお母さんがお店に出てるうちに、コッソリ用意しておこう。
 そう思ったけど、そこでひとつ問題に突き当たる。
(布団って、どこに敷けばいいの?)
 昔ユウくんが泊まった時は、空いている部屋に布団を敷いてたけど、そんなことしたらお父さんやお母さんに見つかりそう。
 勝手に布団を用意しても気づかれそうにない場所なんて、あるかな?
 そして考えた末に、一つだけ見つけた。
(私の部屋だ!)