幽霊になったユウくんは、私にしか見えない。
今までそう思ってたけど、三島はユウくんを見て叫んでた。
「三島、もしかしてユウくんのこと、見えてるの?」
「ふ、藤崎。お前こそ、そいつが見えてるのか?」
そう言うってことは、やっぱり三島にもユウくんが見えてるんだ。
「私と三島には見えるってことは、もしかして知っている人にだけ姿が見えるとか?」
三島だって、生きてた頃のユウくんを知っているから、有り得るかも。
そう思ったけど、三島はキッパリと否定する。
「いや、確かに幽霊ってのは、知り合いの方が見えやすい。お前にコイツが見えるのは、そのせいだろうな。けど俺みたいにちょっと知ってるくらいの関係だと、普通は無理だ」
それなら、どうして三島にはユウくんが見えてるの?
それになんだか、ずいぶん幽霊のことに詳しそう。
もっと聞いてみようと思ったけど、その前にユウくんが私に尋ねてきた。
「俺を知ってるみたいだけど、誰?」
三島も言ってたけど、元々二人は、そこまで深い知り合いってわけじゃない。わからなくても、無理ないか。
「三島啓太ってわかる? ユウくんも何度か会ってるんだけど」
「三島……啓太……?」
ユウくんは、少しの間考えていたけど、ハッとしたように言う。
「あの霊感少年か」
「その呼び方止めろ!」
ユウくんの声をかき消すように、三島が叫ぶ。
霊感少年って、懐かしい。
三島は昔、自分には霊感があるとか幽霊が見えるとか言ってたっけ。
って、ちょっと待って。
「三島がユウくんのこと見えるのって、霊感があるから?」
「まあな」
アッサリ言うけど、私にはかなりの衝撃だ。小さい頃ならともかく、今はもう全然信じてなかったのに。
ユウくんも、これには驚いたみたい。
「ごめんな。てっきり、目立ちたくて嘘言ってるだけだと思ってた」
けど三島に本当に霊感があるなら、気になることがあるんだけど。
「昔、私に変なものが取り憑いてたって言ってたけど、本当だったの?」
もし本当なら、かなり怖いんだけど。
けど、それを聞いて三島は渋い顔をする。
「……嘘だよ。霊感があるって言っても、たまに見えるくらいだ。昔言ってた話は、色々盛ってたんだ」
「なんでそんなことしたの?」
「……そっちの方がウケが良かったからだ」
そんな理由!?
目立ちたいから嘘言ってたってのも、ちょっと当たっていたのかも。
「俺のことはどうでもいいんだよ! それより、もっと大事なことがあるだろ!」
三島は、そう叫ぶと、真っ直ぐにユウくんを指さす。
「そいつ、昔藤崎の近所にいた兄ちゃんだろ。なんで今になって化けて出てるんだよ!」
言われて見れば、確かにそっちの方が大事かも。
けどなんでって言われても、答えようがなかった。
「俺も気付いたら幽霊になってただけだからな。そもそも、どうしたら幽霊になるんだ?」
「俺だって知らねえよ。霊感があるからって、何でもわかるわけじゃない」
「そうなの? でも三島の家ってお寺なんでしょ。それでもわからないの?」
「坊主は霊能力者じゃねえからな。家族でも、幽霊が見えるのなんて俺だけだ。でもな……」
三島はそこで一度言葉を切って、言うのを躊躇うように、少しの間黙り込む。
だけど結局口を開くと、遠慮がちにぼそぼそと話す。
「死んだ人間の魂がこの世に残るってのは、良い状態じゃねえ。そんなの、何となくのイメージでわかるだろ」
「それは、そうだよね……」
確かに。幽霊っていうと、あんまり良いイメージじゃないかも。
未練とか後悔とか、そういうのに引っ張られて、いつまで経っても成仏できない状態って感じ。そんな幽霊に、ユウくんはなっているんだ。
そう思うと、とたんに不安になってくる。さっきまでは、ユウくんとまた会うことができて素直に嬉しかった。
だけどもしかしたら、このまま幽霊でいるのって、まずいことなのかも。
『もしかすると、藍が俺をここに呼んでくれたのかもしれないな』
ついさっき、ユウくんの言った言葉を思い出す。
ユウくんが、どこまで本気で言ったのかはわからない。けど、もし本当にそうならどうしよう。
「本当に私がユウくんを呼んだのなら、余計なことをしたのかも。ねえユウくん。いきなり呼び出されて、迷惑じゃなかった?」
不安でいっぱいになりながら、聞いてみる。
私のせいで迷惑をかけてるなら、そんなの絶対に嫌。
だけどユウくんは、そんな私に向かって、優しく言う。
「大丈夫だよ。俺も、これからどうなるかなんてわからない。けど、呼ばれて迷惑なんてちっとも思って無いよ。むしろこうして藍とまた会えて、中学生になった藍を見ることができて、すごく嬉しいんだ」
そして、慰めるように私の頭の上に手をかざす。
手は相変わらず私の頭をすり抜けるけど、それでも、さっきと同じように、何度も何度も撫でてくれた。
「あ、ありがとう……」
我ながら、なんて単純なんだろう。
ユウくんが幽霊になったことへの不安は、相変わらずある。
なのに、会えて嬉しいと言われたら、喜ばずにはいられなかった。
けどその時、私たちの間に、不機嫌そうな声が割って入ってくる。
「……なあ。二人とも、俺がいるってこと、わかってるよな?」
「み、三島!?」
わわっ! 撫でられるのに夢中になって、三島のことちょっとだけ忘れてた。
今までそう思ってたけど、三島はユウくんを見て叫んでた。
「三島、もしかしてユウくんのこと、見えてるの?」
「ふ、藤崎。お前こそ、そいつが見えてるのか?」
そう言うってことは、やっぱり三島にもユウくんが見えてるんだ。
「私と三島には見えるってことは、もしかして知っている人にだけ姿が見えるとか?」
三島だって、生きてた頃のユウくんを知っているから、有り得るかも。
そう思ったけど、三島はキッパリと否定する。
「いや、確かに幽霊ってのは、知り合いの方が見えやすい。お前にコイツが見えるのは、そのせいだろうな。けど俺みたいにちょっと知ってるくらいの関係だと、普通は無理だ」
それなら、どうして三島にはユウくんが見えてるの?
それになんだか、ずいぶん幽霊のことに詳しそう。
もっと聞いてみようと思ったけど、その前にユウくんが私に尋ねてきた。
「俺を知ってるみたいだけど、誰?」
三島も言ってたけど、元々二人は、そこまで深い知り合いってわけじゃない。わからなくても、無理ないか。
「三島啓太ってわかる? ユウくんも何度か会ってるんだけど」
「三島……啓太……?」
ユウくんは、少しの間考えていたけど、ハッとしたように言う。
「あの霊感少年か」
「その呼び方止めろ!」
ユウくんの声をかき消すように、三島が叫ぶ。
霊感少年って、懐かしい。
三島は昔、自分には霊感があるとか幽霊が見えるとか言ってたっけ。
って、ちょっと待って。
「三島がユウくんのこと見えるのって、霊感があるから?」
「まあな」
アッサリ言うけど、私にはかなりの衝撃だ。小さい頃ならともかく、今はもう全然信じてなかったのに。
ユウくんも、これには驚いたみたい。
「ごめんな。てっきり、目立ちたくて嘘言ってるだけだと思ってた」
けど三島に本当に霊感があるなら、気になることがあるんだけど。
「昔、私に変なものが取り憑いてたって言ってたけど、本当だったの?」
もし本当なら、かなり怖いんだけど。
けど、それを聞いて三島は渋い顔をする。
「……嘘だよ。霊感があるって言っても、たまに見えるくらいだ。昔言ってた話は、色々盛ってたんだ」
「なんでそんなことしたの?」
「……そっちの方がウケが良かったからだ」
そんな理由!?
目立ちたいから嘘言ってたってのも、ちょっと当たっていたのかも。
「俺のことはどうでもいいんだよ! それより、もっと大事なことがあるだろ!」
三島は、そう叫ぶと、真っ直ぐにユウくんを指さす。
「そいつ、昔藤崎の近所にいた兄ちゃんだろ。なんで今になって化けて出てるんだよ!」
言われて見れば、確かにそっちの方が大事かも。
けどなんでって言われても、答えようがなかった。
「俺も気付いたら幽霊になってただけだからな。そもそも、どうしたら幽霊になるんだ?」
「俺だって知らねえよ。霊感があるからって、何でもわかるわけじゃない」
「そうなの? でも三島の家ってお寺なんでしょ。それでもわからないの?」
「坊主は霊能力者じゃねえからな。家族でも、幽霊が見えるのなんて俺だけだ。でもな……」
三島はそこで一度言葉を切って、言うのを躊躇うように、少しの間黙り込む。
だけど結局口を開くと、遠慮がちにぼそぼそと話す。
「死んだ人間の魂がこの世に残るってのは、良い状態じゃねえ。そんなの、何となくのイメージでわかるだろ」
「それは、そうだよね……」
確かに。幽霊っていうと、あんまり良いイメージじゃないかも。
未練とか後悔とか、そういうのに引っ張られて、いつまで経っても成仏できない状態って感じ。そんな幽霊に、ユウくんはなっているんだ。
そう思うと、とたんに不安になってくる。さっきまでは、ユウくんとまた会うことができて素直に嬉しかった。
だけどもしかしたら、このまま幽霊でいるのって、まずいことなのかも。
『もしかすると、藍が俺をここに呼んでくれたのかもしれないな』
ついさっき、ユウくんの言った言葉を思い出す。
ユウくんが、どこまで本気で言ったのかはわからない。けど、もし本当にそうならどうしよう。
「本当に私がユウくんを呼んだのなら、余計なことをしたのかも。ねえユウくん。いきなり呼び出されて、迷惑じゃなかった?」
不安でいっぱいになりながら、聞いてみる。
私のせいで迷惑をかけてるなら、そんなの絶対に嫌。
だけどユウくんは、そんな私に向かって、優しく言う。
「大丈夫だよ。俺も、これからどうなるかなんてわからない。けど、呼ばれて迷惑なんてちっとも思って無いよ。むしろこうして藍とまた会えて、中学生になった藍を見ることができて、すごく嬉しいんだ」
そして、慰めるように私の頭の上に手をかざす。
手は相変わらず私の頭をすり抜けるけど、それでも、さっきと同じように、何度も何度も撫でてくれた。
「あ、ありがとう……」
我ながら、なんて単純なんだろう。
ユウくんが幽霊になったことへの不安は、相変わらずある。
なのに、会えて嬉しいと言われたら、喜ばずにはいられなかった。
けどその時、私たちの間に、不機嫌そうな声が割って入ってくる。
「……なあ。二人とも、俺がいるってこと、わかってるよな?」
「み、三島!?」
わわっ! 撫でられるのに夢中になって、三島のことちょっとだけ忘れてた。


