さっちゃんは生まれた。 小さな小さな体でね。
誰かに遠慮するように小さな小さな声でママを呼んでくれた。
 でもさっちゃんは何も見えなかった。
ママは将来を心配して一日泣いた。

 泣いたってどうしようもないじゃない。
悔いたってどうしようもないじゃない。
さっちゃんはいつも笑ってた。
ママを励ますように笑ってた。

 そしてさっちゃんは一人で歩けるようになった。
あっちこっちにぶつかりながら歩けるようになった。
見えなくても平気だよってママに言ってるみたいだね。
そんなさっちゃんを見てママもやっと笑顔になった。
 さっちゃん 今日は何処に行こうか?
ママも嬉しそうにさっちゃんの手を握った。
吹いてくる風に頬を撫でてもらいながらさっちゃんは笑った。
これからもいろんなことが有るんだね。
パパはまっすぐにさっちゃんを見詰めていた。

 「ママ これは何?」 さっちゃんが手に取ったのは小さな虫の抜け殻だった。
ママはそれを見て笑った。
「それはね、虫さんが着ていたお洋服だよ。」
 ママは嬉しかった。 少しずつ少しずつさっちゃんがいろんなことを知り始めたんだ。
生まれてきてくれてありがとうね。 さっちゃん。